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(・ー・)akeruno

 それは十二月二十九日のことだった。
 古手梨花、古手羽入、北条沙都子は圭一の誘いで前原屋敷にいた。そこには竜宮礼奈、園崎魅音、園崎詩音の姿があった。
「で、まずは炎を題材に作文を書いて貰おうかねぇ」
「魅ぃちゃん、それ全然訳が判らないよ」
「みー。魅音の発想はいつも突発的なのです」
「そんなにおじさんを褒めないでくれないかぁ、くくくく」
「お姉、馬鹿にされているのに気づかないだなんて本当に可哀想なお人」
「でさあ、なんで俺の家にみんないるんだよ! さっぱり判らなねーんだけど!! しかも俺、メイド服着ているし!」
「圭一さんは突っ込みどころが満載ですわね」
「あぅあぅ☆ そうなのですね」
 冬の雛見沢は積雪が凄くこうして室内で遊ぶことが多い。それゆえ麻雀や魅音のこうした突拍子のない発想で遊ぶことが梨花にとっては毎年のことだった。
 その時ふと羽入が口を開いた。
「あぅあぅ。梨花、その言いたいことがあるんですけど」
「ん。何よ羽入。言ってみなさいよ」
「梨花の書く文体はちょっとおかしいのですよ?」
 この部活、題材の炎について作文を書くのはチーム戦である。即ち、ペアのものがお互いの作品をチェックして審査員である魅音に提出するものであった。圭一はレナ。沙都子は詩音。そして梨花は羽入と組んでいた。
「ちょっと! 文体がおかしいって一体どういうことよ!」
 梨花の突然の怒鳴りにみんなは驚いた顔をする。
「あぅあぅ。梨花。これは一人称なのですか三人称なのですか? ごっちゃになっているのですよ」
「それは……そうかもしれないけど」
「なので僕が修正するのですよ。あぅ☆」
「あ……」
 羽入は有無を言わさず鉛筆で書いた梨花の文を消しゴムで消して修正版と称し作文を書き直していた。
「それとここの文体はちょっと変なので直しちゃいますね……って梨花聞いていますか!?」
 梨花は不機嫌な顔をし、立ち上がった。
「私、帰る」
 突然の梨花の行動に皆制止したが梨花の決意は固かった。
 羽入はそうですかと言葉を書けると作文の方に戻してしまった。

 梨花は一人帰路につく。
 おもしろくない。たかだか作文を他人に修正しただけなのに。
 なのにすっごく気分が悪いわ。
 その時ふと見慣れた人影が近づいてきた。それは鷹野三四だった。
「あら、私の愛しの梨花ちゃん、こんにちはー☆」
「ふん。誰が愛しの梨花ちゃんよ」
 梨花はそう突き放した態度でいると、
「あー梨花ちゃんツンツンモード☆ また私を陵辱したりないのね!」
「みー! 鷹野は一体何を言ってやがるのですか! 陵辱なんてしないのですよ!」
「じゃああの日、私の家であんなに愛し合っていたのはなんだったの!」
「誰も愛し合っていないのですよ!」
「そうやってじらしちゃうのが梨花ちゃんのい・い・と・こ・ろ☆」
「うっせなのですよ!」
 梨花と鷹野は綿流しの時に一大喧嘩をし、今では互いの家に泊まりに行くほどの愛し合った関係になっていた。もっとも梨花は素直ではないため鷹野が梨花を家に呼んだり家に突然押しかけたりするのだが。
 鷹野は梨花に何があったのか話す。
 梨花は一呼吸置いてから前原屋敷であった経緯を鷹野に話した。すべて話し終えると鷹野はそれは同情するわ、と言う。
「だってその人、人の気持ちぜんぜん判っていないんですもの」
「みー。こんなことで怒る僕は変なのでしょうか」
 すると鷹野はしゃがみ込み梨花の目にかかった前髪に触る。梨花にはその指先は細く、とても心地よい感触だった。
「心配しなくても大丈夫よ。だってその人、文字で死んじゃうから☆」

 鷹野の分かれた後、梨花は家に戻り羽入と沙都子の帰りを待った。
 数時間後二人は帰ってきた。
 部活は梨花が突然帰ったのでノーカウントとなった。羽入は自信があったんですけどと愚痴っていた。
 そして夕食を食べ宿題をしているときのこと
「あぅ……?」
「ん。どうしたのよ。羽入?」
「………なんだか文字が上手く書けないのです」
「? 酔っぱらったの?」
「あぅ。それは梨花のことなのですよ!」
「ん。羽入さん。酔っぱらうでどうして梨花の名前がでるのですの?」
「あぅ。沙都子聞いてくださいなのですよ。梨花は……あぅあぅあぅあぅあぅ!!」
「ど、どうしましたの!? 羽入さん!? って梨花ー!! また檄辛キムチを食べていましたわねー!!」
「みー。ざまーみろなのですよ☆」
 梨花は少しだけ気分がすっきりした。

 宿題を終え、就寝の時間帯。
 梨花はしばらくワインを晩酌した後眠りにつこうと布団の中に入る。
 しばらくして、あぅ! と羽入のうめき声が聞こえてきた。
 梨花はどうしたの!? と声を掛けようとするが喉になにか突っかかる感覚に襲われて上手く喋ることができない。また体を動かそうとするが硬直して動かない。世に言う金縛りの状態にあった。
 羽入のうめき声はさらに大きい。
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!!
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!! 
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!
 かろうじて動く瞳を隣に寝ている沙都子の方に見るが、彼女はすやすやと心地よさそうな顔をして眠っていた。
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい!! 
 羽入の叫び声はもはや絶叫と呼んでもおかしくなかった。
 だが相変わらず沙都子は羽入の声には気づかず寝ていた。
 なに? なにが起きているの!?
 首は天井を見続けたまま。
 羽入は一体何が!? 羽入に一体なにが!?
 梨花は心の中で羽入に呼びかける。いつもは梨花が何か答えると反応が返ってくるが今は応答はなし。
 なに。なによ。
 羽入は梨花の呼びかけに答えてくれない。
 代わりに羽入は叫び声と熱さを訴えていた。
 なんで? なんで? 
 もういい加減にして!! 
 梨花はそう心の中で訴えると羽入の叫びは一瞬にして途絶える。
 代わりに一気に静寂があたりを包み込んだ。
 何も音がしない世界。
 途端。
 それは音だった。いや音ではない。
 文字。
 文字の羅列が天井に一瞬にして溜まっていった。それは例えるのならムカデの集まりのようなもの。たがムカデのように生優しいものではない。
 だってそれは梨花には初めて見る光景なのだから。
 梨花は相変わらず金縛りの状態。
 文字の集まりはしばらく蠢いていたが梨花と目を合わせた途端、一直線に梨花に向かって……伸びた。
 その瞬間梨花は金縛りの状態が解け横にかわすことができた。
 文字の集まりは真っ逆さまに下に落ちる。それは砂時計で真っ逆さまに落ちる砂のよう。
 梨花ははぁはぁと荒い息と同時に凄い汗が額に出ていた。
 羽入を見る。羽入はとても安らかな表情をしていた。

 翌日、羽入は梨花に謝ってきた。
「あぅあぅ。ごめんなさいなのです。僕、他人の文字に修正を入れるなんて非道な真似をしてしまったのです。あぅ。梨花だからいいかな、と思ったのに。梨花の気持ちに全然気づいていなかったのですよ」
 梨花は突然のことに吃驚していた。


 それから。
 梨花は古手神社裏手の展望台で鷹野三四と合った。
 そして羽入のこと、昨日の晩のことを話す。
 すると鷹野はくすっと笑った。
「ああ、それはね。羽入ちゃん燃えていたんじゃない?」
「え!? それはどうして!?」
「だって梨花ちゃんがそう望んだんでしょ? 羽入ちゃんが文字を修正してしまった腹いせに」
「そんなこと……」
「そういうことよ。それにね、梨花ちゃん。文字の集まりが、っていたわよね。それはたぶん意志の籠もった文字よ。意志の籠もった文字は怖いのよ。だって文字ほど人の想いを憑依するものはないですもの」
 鷹野は後ろから梨花に抱きついてきた。
「で、その羽入ちゃん。無事だったんでしょ?」
「みー。無事だったのですよ」
 そう、と鷹野はつぶやき、
「昨日梨花ちゃんに言ったじゃない。羽入ちゃんは文字に殺されるって」
「そ、そうだったかしら……」
 梨花は上ずった声で答えた。
「ええ。もしかしたら羽入ちゃんは死んでいるのかもね」
「死んでいる? どうして?」
「だって……生きるかどうかわからないじゃない」
「……………」
 がさがさ。
 梨花の耳には昨夜聞いた文字の集合体の不愉快な音が聞こえた。
「ねえ鷹野。なら私は!? 生きてるの!?」
 途端、梨花は振り返って鷹野の顔を見た。
 鷹野はとてもやすからな顔をしていた。
 そして一言。
「さあ」

 そして梨花は■■■■■■■■■■■。

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 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 
 鷹野は梨花をぎゅっと抱きしめていた。
 とても力強く。
 そして鷹野の目の前に「炎」と言う文字に占領された雛見沢の光景が見えた。


(・ー・)akeruno

2008/01/06 20:27 | 3600COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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