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 古手梨花は前原圭一、竜宮レナ、園崎魅音、北条沙都子、古手羽入達と共に古手神社の桜を眺めていた。
 みんな騒いでいる。
 みんな浮かれている。
 私も浮かれたい、と梨花は思った。
 そうして手には醤油。
 楽しいことが始まる。
 そんな予感がした。


 『iru』



 昭和59年の4月になると全国的に桜が満開になり、雛見沢も例外ではなかった。
 人は桜を見るとつい高揚してしまう。それが今日における花見と同等であるように。
 だが梨花は桜に対して一種の嫌悪感を持っていた。
 それはある種の諦観。
 彼女は桜を見る度また一つ、溜息を吐いた。
 そんな彼女の仕草を倉庫小屋で同居している沙都子は怪訝な表情を浮かべた。
「梨花、一体どういたしましたの? せっかくのお花見なのですわよ。だから暗い顔を浮かべませんこと?」
「みー? ボクは暗い顔なんで浮かべてないのですよ。どちらかと言うと沙都子はかなりの羞晒しなのです。にぱ~~☆」
「ちょ、そんなこと言わないでくださいませ!」
 沙都子は狼狽えた表情をしながら後ずさりしていた。
 彼女は現在メイド服を着用している。勿論、罰ゲームである。
 数日前に部活をやったおり、沙都子の読みが悉く外れ、結果花見の時にメイド服を着用を義務付けられたのである。
 いや、彼女だけでない。周りを見渡すと圭一、レナ、魅音、羽入のそれぞれがメイド服を着用していた。
 沙都子のはオードソックス。
 圭一のはファンシー。
 レナは割烹着。
 魅音と羽入はアインツンベル○家のメイド服。
 つまり、部活は梨花の一人勝ちであった。
 時折全員が梨花に対して呪詛を籠めた睨みを浮かべていたが、気にせずにいた。
 勿論、花見は人数の多い方がいいに決まっている。
 そこで大石蔵人、赤坂衛、園崎茜、葛西達由、入江京介、鷹野三四、富竹ジロウと蒼々たる面子が集めた。
 ちなみに園崎詩音と沙都子の兄の北条悟史は二人で興宮にいる予定である。
 もっとも魅音は事前に手を打って電話で公由夏美と藤堂暁を雛見沢に呼び寄せていちゃらぶ展開にならないようにしようと企んでいる。たが問題は夏美と暁が既に恋人同士なので詩音の口車に乗っかり、別行動をしてしまうことである。
 だが当の魅音はそのことに気づかず素直に巨乳メイドをしている。
 みんな騒いでいた。
 みんな楽しそうだった。
 梨花はまた、溜息をはいた。
 楽しいことは目の前にあるはずなのに、どうして私の心は晴れないのだろうか。
「あぅあぅあぅ。梨花、なんだかつまらなそうなのですよ」羽入が訊いてきた。
「ええ。つまらないの。なんでかしらね」
「あぅあぅあぅあぅ。人にこんな格好させておいてつまらないとはなにごとですか。みんなもっと神様を敬えなのですっ!」
「・・・・・・・・・・・・貴女、そのメイド、キャラ違わなくない!? ハッキリ言って羽入、ツンデレじゃないからね!」
「あぅあぅあぅあぅ!! お前にキャラ設定云々言われる筋合いはないのですよ! この金の亡者め!」
「亡者って、貴女だって、シューの亡者でしょ!? それに私は醤油の魔法少女、古手梨花ちゃんなんだから間違わないでよね、馬鹿!」
「醤油の魔法少女ってそんな魔法少女この世にあるとお思いなのですか!? そんなことやったら全国醤油組合に告訴されるのですよ!!」
「ねえ、羽入知っている。PTAって一部の親が問題するだけであって、大半は無関心なのよ。だからそんな組合が着ても、この雛見沢のアイドル、ついでに『ひぐらしのなく頃に』の経済効果で私の株は大もうけよ! さあ、みんなボクに醤油とお金を湯水の如く落とせなのですよ!!」
「お前はいろんな意味で間違っているのですよ!!」
 
 梨花は羽入との雑談を終えるとふと鷹野の顔を見た。
 鷹野はにっこりと笑みを浮かべていた。
 どうしてだろう、嫌悪感がする。
 何かよかなる予感。
 すると、
「梨花ちゃ~ん。酔っぱらっちゃった~☆」
 顔を赤らめて急に梨花に抱きついてきた。
 それを見て富竹と入江は苦笑いをしていた。
「あはは。梨花ちゃん、鷹野さん家の中で暫く鷹野さんのこと、止むませてくれないかい?」と富竹。
「・・・・・・・・・・・・えっと」
「ん。どうかしたんですか? 何か都合でも?」
 入江の質問に梨花は咄嗟にかぶりを振りながら「なんでもないのですよ。にぱ~☆」と笑みを浮かべた。
 正直あまり人を家の中に入れたくなかった。家とは古手神社内にある本家のことである。
 両親と梨花は親子として乖離していた。
 それは梨花が一番理解している。
 だけど、
 そうこうしている間にも鷹野は富竹によって本家に運ばされていた。

 梨花は家の中に入り、かつて客間用に使っていた部屋に案内し、富竹は梨花の指示に従い布団を敷き鷹野を横に寝かせた。
「ごめんね~☆ ジロウさん、ごめんね~☆」
「あはは。鷹野さん、べろんべろんだね」
「あぅ~。梨花ちゃん、もっとこっちにおいでよ~」
 遠巻きに二人を見ていた梨花が呼ばれた。
 何で呼ばれたのだろうと近づくと鷹野は突然、梨花の頭を撫で始めた。
 突然のことに梨花も目が点になってしまった。
「な、なんなのですか? ボクは・・・・・・」
「あはは~。かっわいい~☆」
 鷹野はにやりと笑っていた、刹那。
「ねえ、どうして梨花ちゃんはつまらなそうな顔をしているの~?」
 核心をついてきた。
 梨花は顔を顰めた。
「そ、そんなこと・・・・・・。関係ないのですよ」
「関係ない、って本当かな~?」
「鷹野は一体何がいいたいのですか!?」
 眉毛をつり上げて激昂した表情を浮かべる梨花。
 すると鷹野は訥々と喋った。
「別に・・・・・・。ただつまらなそうって思っただけ。どうして梨花ちゃんは花見、嫌いなの!?」
「嫌いって・・・・・・それは」
「違う!? だってさ、一人だけつまらない顔しちゃって、みんなが楽しめば楽しむほど、梨花ちゃんの心は乖離している、って私は思うの」
 ・・・・・・図星だった。
 正確に言えば梨花は花見が嫌いではない。
 花見をした記憶、つまり昔、両親と一緒に花見を楽しんだ記憶を思い出すのだ。
「ボクは桜を見ると、両親を、思い出す。母の笑う顔、父の酔った顔。それが酷く気持ち悪いの」
 梨花の話を富竹と鷹野は相槌もせず、聞いていた。
 そして鷹野は、
「あははは~☆」
 笑っていた。
「みー。突然笑うなんて酷いのですよ! 折角・・・・・・」
「機嫌が悪くなったのならごめんなさい。でもね、いつまでも過去の記憶に縛られるのどうかなっ~て」
「え!?」
「うん、それは僕も賛成だな」富竹が言った。「悲しいことがあったのなら、いつまでもそんな記憶を引きずるよりも楽しい思い出を作ればいい。そうだろ!? 僕は少なくとも、そう思うな」
 梨花は何も言えなかった。
 楽しいことを作ればいい。
 そうか。
 梨花は、納得した。
 私はつまらないと感じていたのは単に楽しむのが怖かっただけだったのだ。
 両親のことを拘っていたのは単に臆病なだけだったんだ。
 だから私は・・・・・・楽しむことを、放棄した。
「ねえ、梨花ちゃん。鷹野さんは僕が見ているから梨花ちゃんは戻って良いよ」
「で、でも・・・・・・」
「ほら」鷹野は梨花の頭を触った。
 刹那梨花は険しい表情から逡巡し、それから。
 穏やかな表情を浮かべた。
 そうして梨花は鷹野と富竹を残して家から出る。
 出た途端。
 飛行機雲が梨花の眼下に広がっていた。
 一直線に伸びる飛行機雲。
 そして聞こえる。
 みんなの声。
 梨花は駆け出す。
 楽しいことを、するために。



                                      おわり

2008/01/06 20:25 | 3600COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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