FC2ブログ

雛見沢停留所にて 零式




 鉛色の空の中、園崎茜はふうと溜息を吐いた。
 彼女は空を仰ぎ、早くバスが来ないかね~と愚痴をこぼす。
 と茜は横目にして隣にいる少女達を見た。

「り、梨花さん! 茜さんに睨まれちゃっていますよー! やっぱり私達の愛を紡ぐにはそれなりの試練が必要ってことなんですよねー!

 もう~折角私と梨花さんの愛の巣になろうとしているこの停留所で茜さんが意気揚々と来ちゃってー! 私としては大人なんだからもうちょっと場の空気を読んで欲しいなー! って思うんですけど梨花さんはそう思いますよねぇ?」
「……そうね。ま、暇潰しにはいいんじゃないのかしら」

 彼女達、『魅音』と『梨花』は喋っていた。
 全く、ガキのする会話だね。
 茜は聞き耳を立てながらそう思ったのだった。


雛見沢停留所にて・零式


 園崎茜が間違えてバスを乗ったところから話は始まる。元来茜がバスに乗ることは希なことであり、約束の場所についたのかいと思いながらバスから降りると、その停留所に人がいた。しかも約束の人物がなかなか現れないのでそこで待っている少女達と話すことにしたのだが、彼女達を見てみるとそれは古手梨花と園崎魅音であった。しかし園崎茜の知る二人ではない。そもそも茜の知っている梨花は十歳行くか行かないかの小柄な少女であったが目の前にいる少女は梨花よりも5つほど年を取った姿だった。
 一方、園崎魅音は茜の知る魅音より一つや二つ下であった。
 だが茜にとってみれば五つ重ねようが重ねまいが子供に違いなかったので開口一番にやりと苦笑した。
 その後茜は彼女達に自己紹介をさせた。予想が的中し梨花似は『梨花』、魅音似は『魅音』で合っていたらしい。
 だが『魅音』は茜のことを知らなかった。

「まったく。生みの母の顔を忘れるなんて、とんだ親不孝ものだよ」
「私は違うって言っているじゃないですかー! それに私は梨花さんさえいればいいんですよー! 茜さんにはこっからぜ~ったいに入らないでくださいね!」

 『魅音』は怪訝な表情をしながら線を引くように手を横に移動させた。
 だが茜はそんなことお構いなしに『魅音』の引いた線を越え、二人に近づいた。

「ぎゃ、ぎゃー! なんで近づいてくるんですか! ちゃんと空気読んでくださいよ! 折角線を引いたのにー!」
「はん。お前みたいなハンパなガキのくせになにが線なんだい。娘の線は私の線なんだよ!」
「ひぃー! この人、凄いですよ、梨花さん! ど、どうしましょう~?」

 狼狽した表情で『魅音』は『梨花』を見る。
『梨花』はつまらなさそうな表情を浮かべた。

「・・・・・・別に。構わないわ」
「きゃー! 流石梨花さんですー! まったく動じないだなんて凄いですぅー!」
「・・・・・・はん。クソガキ風情が大人ぶった真似をして解せないねえ。魅音、あんたもこんな大人になるんじゃないよ」
「ちょー! だから私はー! それに梨花さんのことを馬鹿にしないでくださいー!」

 その時ざくと足音が聞こえた。茜達三人は音の方は振り向くと、そこにはまたもや見慣れた知人の姿があった。
 大石蔵人と熊谷勝也である。
 だがこの世界もまた二人に似て非なるものなんだろうね~と茜は状況に動じず、淡泊な声を発した。

「まったく、今日は厄日だねぇ~。ところでそちらのお二人さん名前はなんて言うんだい」
「んっふっふっふっふ。これはこれは綺麗なご婦人ではないですか。ご機嫌麗しゅうですよ~。あ、私**ダム現場で働いています利根川と申します」と大石似の男性。
「私は見習いの荒川と申します」と熊谷似の男性。
「へぇ~ダム現場に勤務ねぇ~。なんとも隠喩的じゃないか」
「ん。いかがしましたか?」
「はん。別に構いやしないよ。どうせこの世界では私の知っている二人ではないんだからね」

 おやと利根川は怪訝な表情を浮かべた。茜は仕方ないねぇ~と溜息を吐きながら事のあらましを二人に説明した。

「ははん。つまり茜さんは違う世界に紛れ込んできた、というわけですねぇ。パラレルワールドといいましょうか。SF的ですと平行世界という言い方が一般的ですねぇ。んっふっふっふ」
「生憎私は本を読まない主義なんでね。ていうか本っていうのはあれだろ? 教養と娯楽を安易に手にいてるための道具に過ぎないだろ。私しゃ娯楽なんてものは私が楽しければ娯楽なんだよ。それに教養だって本だけ読んで暗記した頭でっかちが実社会で適応するかっていったら大間違いだよ」
「茜さんはまったくこの状況に動じてないっスね。これも実社会での適応した結果なんスか」荒川が訊いた。
「つくづく野暮だねえ。ま、そんなんだからこの世界でも下っ端風情なんだろうけどね」

 茜はとても落ち着いていた。その姿に逆に荒川や利根川の方が不安に陥るはめになった。
 動揺を隠すように苦笑いをするが茜も直ぐに笑みを返した。

「ところで大の男がこんなところでどうしたんだい? もしかして魅音達を口説きにきたのかい? はん。やめてくれよ、婿は前原屋敷の坊やみたいな色男がいいんだよ。ハッキリ言って私のチェックは厳しいから覚悟しておきな」
「茜さん抑えてください。この世界は貴女の知る世界ではないのです。そもそも私達には毛頭ありません」と利根川。
「ふうん」茜は生返事をした。「じゃあ一体何で来たんだい」

 利根川は逡巡しながら続けた。

「ダム現場の監督、いえおやっさんが何者かに殺されたんですよ。そこにいるお二人にね」
 
 外は鉛色の空が今にも雨が降りそうになっていた。
 だが茜は微動だにせずふうんと受け流していた。

 利根川と荒川の話によるとおやっさんと名乗るダム現場監督が電話BOXで会話中に何者かが撲殺されたという。二人はおやっさんと三人で行動をしていたがその時はたまたま席を外しており、実質おやっさんは密室で殺されたという。

「ちょ、なんでそこで梨花さんと私が疑われなきゃいけないんですかー! 名誉毀損、名誉毀損ですよー!」『魅音』が激昂した。
「んっふっふっふっふ。ここら辺、地面がぬかるんでいましてね、足跡を辿ったらここに行き着いたわけですよ。大体うら若き乙女がこんな狭い停留所で一体何をしているのでしょうね。もしかして秘め事でも?」
「あー! あー! もうー! そんなこと言わないで! だったら貴方達だって怪しいじゃないですかー! なんでその時二人ともいなくなるんですかー! 絶対に可笑しい可笑しい可笑しいですよー!」
「もうちょっと詳しい話を聞かせてくれるんだろうね」茜が間に割ってきた。
「・・・・・・茜。その人達に肩入れするの?」『梨花』が尋ねた。
 
 茜は怪訝な顔をしながら『梨花』を睨んだ。

「はん。あんたも私のことを名字で呼ぶんだね。いいかい。私のことを名字で呼んでいいのは母さんである現園崎家頭首園崎お魎と私自身だけさ。それ以外は例え夫や娘だろうと赦さないよ。それに肩入れとか言ったね。私にとっちゃ誰が殺されようが祟られようが知ったこっちゃないんだよ。ただ私の目の前でそれをやられたら黙っちゃいられないんだよ。それと私の嫌いなものを教えてやろうか。一つは椎茸。あれだけは死んでも嫌だね。次に嫌いな者は嘘。嘘つきは大っ嫌いなんだよ。時点で嫌いなのは名探偵さ」
「名探偵ですか」荒川が割った。
「そうさ。小説とかでよく出てくる名探偵。私にとっちゃ名探偵なんてものは単に事件が起こったからそれを密室なり、孤島なり、洋館なりと道具をつけて、さもありなんな推理をした殺害を犯人に言って終わりだろ? もっというのなら犯人を自殺に追いつめるだけじゃないのかい? 私しゃあ明智小五郎も金田一耕助も単なる推理狂の人殺しにしか見えないね」
「・・・・・・知らない割には随分と詳しいじゃない」と『梨花』
「娘の通っている雛見沢分校の事務員をしているミステリ狂がやたらに絡んでくるんでね、不可抗力に詳しくなっちゃったのさ。男のためなら趣味も臨機応変なのさ」

 にかっと茜は笑った。
『梨花』は頷きも笑いもせず憮然した姿をしていた。
 
「では私からお話いたしますっス」と荒川。「この二人は今朝おやっさんと一緒の場面をみたことがあるっス。そもそも『魅音』さんとおやっさんはもう昔から反りが合わなかったようで」
「あったりまえじゃないー! なにが悲しくて人が住んでいる土地にダム建設しているわけなのー! そんなチョームカツクなんですぅー! まあ殺意があったのは認めますよ。でもですね、人を殺すなんてそんなことするもんですかー!」

 『魅音』は激昂していたが、茜は『魅音』を睨んで威圧しながら荒川から話しを続けるように進めた。
 この世界でもダム戦争はあり、そして茜のいる世界と同等に北条家による追い出し派もいた。それゆえ日夜村と行政の争いを続けており険悪なムードが村中にあった。
 『梨花』も古手梨花同様神社の娘で、中立を保とうとしていた。
 はは~ん。なんか見えてきたよ。まるで私の周縁で起こっていることの縮小版みたいじゃないかい。
 茜は思ったことを口にするとと「……茜さんも、知っているの」と『梨花』が尋ねてきた。いつもつまらなそうな顔をしている『梨花』と違いそわそわしている感じだね、と茜は感じた。

「ああ。大体ね。でもこの世界と私の住む世界は違うんだろ? なら話したって仕方がないじゃないのさ。もしかして何か訊きたいことでもあるのかい?」

『梨花』はいえと言いながら遠慮していた。
 まったく、ひねくれている所は一緒だね。
 茜は『梨花』を見ながらそう思った。

「ちょっとー! 茜さん、聞いてくださいよー!」

 割るように『魅音』が茜に声をかけた。全く、空気が読めないところは一緒だねと茜は嘆いていた。

「そもそもこの利根川さん達だっておやっさんと慕っていますけどー内心殺してやりたいって噂聞いたことあるんですよー! まあ私達がその状況を作っているけどーそれにしたって内部分裂甚だしいしくないですかー!」
「んっふっふっふ。自分のまいた種の尻を拭けない小娘に言われたくありませんね。確かに私はそんなことも言ったことあるかもしれません。でもね『魅音』さん。そんなのは所詮噂に過ぎません」

 利根川はにやりといやらしい笑みを含みながら答えていた。
 それを見て、茜は。
 ふうん。
 と生返事をした後に外を見た。
 鉛色の空。いつ雨が降るかも知れない今。
 まったく。
 なんでこんなことしなくちゃいけないのかね。
 私が嫌いな名探偵な真似をするなんて、あの事務員じゃあるまいし。
 だけど、ま、判っちゃたものは仕方ないね。
 茜はそう思い、利根川、荒川、『魅音』、『梨花』を見て声を発した。

「あのさ。ミステリ談義はこれぐらいにして、そろそろお開きにしないかい」
「お開きって。茜さんは犯人判ったんですか?」荒川が尋ねる。
「なんだい? 判らないとは大層な人間だねぇ、あんた」
「んっふっふっふ。いい加減教えてくださいよ。ここでその二人が犯人だってことを証明してください」
「あ、ちょっとー! 茜さんは私達の味方ですよねー! なんたって茜さんの住む世界だと私は茜さんの娘だしー!」
「……茜さん」

 様々な思いを入り乱れて茜以外の四人は彼女に目を行った。
 ごろろ。
 遠くの方から雷がなった。
 茜は深く溜息をついた後に、けだるい表情で言った。

「犯人ってそんな野暮なこと私に言わす気かい? そんなの私の目の前にいる全員に決まっているじゃないか」

ひたひとひんやりした空気が辺りを包み込む。
 茜は四人を眺めると悲壮感にも焦燥感にも絶望感にも見て取れる曖昧模糊な表情をしていた。

「ちょ、な、なんで茜さんは私達のことを犯人っていうんですかー! だって私達、そんな間柄じゃないですよ! 大体何が悲しくてこんな中年連中と共犯しなきゃいけないんですかー! 梨花さんも何か言ってくださいよぅ!」

『魅音』は上ずった声で激昂していた。

「はん。どうやらこの世界の『魅音』も私の知っている魅音と同じく嘘はへたくそのようだね。いいかい? 大体端から見ているとあんた達仲よさげなんだよ。確かに私の知っている世界でもダム戦争はあった。でもあれは戦争だった。ダム建設に関わっている人間は当時顔さえも見たくもなかったね。ところがどうだい? この世界のあんたらときたらとても和気藹々なんだよ。『魅音』といい利根川といい荒川といい、『梨花』といいしね」
「……私は、違う」と『梨花』
「嘘だね」刹那茜は言い切った。「あんたはさっきからずっと俯いていた。最初私の知っている古手梨花と同じようにどこかすれているように見えた。でもね、あんたを見ているとどうも違う。なんていうか違和感、いや、違うね。単なる怯えさ。つまり『梨花』は人殺しをしたことに恐怖を覚えているのさ。今の『梨花』の心情を言おうか? どうしようもない程の高揚感と恐怖が交差して、疑心暗鬼になっているんじゃないのかい?」
「…………………」

 梨花は頷かなかった。だが顔を強ばらせて明らかに茜の言ったことに過敏に反応していた。
 その時利根川が間を割った。

「ではお聞きしますが、おやっさんのアリバイはどう証明するんですかぁ? その時間帯私達はいなかったんですよ」
「本当にいなかったのかい?」
「ええ。勿論、丁度その時人に見られていますからね、んっふっふっふっふ」
「その人ってのは、『梨花』と『魅音』じゃないのかい?」
「なっ…………!」

 仏顔をしていた利根川は途端、図星をつかれたような表情に急変した。
 あらら。どうやらこっちの方がチョロいね。
 茜はにやりと笑みを零した。

「どうだい? 良心の呵責に耐えきれなくなった感じは。私しゃあるよ。本当に何も言えない時ってきついんだよね~」
「…………なぜ」
「ん?」
「…………なぜ、茜さんは判ったの?」

 訥々な口調で『梨花』が尋ねた。茜はさあと生返事をした。

「判っちゃったんだから仕方ないだろ。それに私は名探偵みたいに小出しの犯人当てってのが大っ嫌いなんだからさ、言う時はズバって言うよ」

 刹那、遠くの方からバスが停留所に近づくエンジン音が聞こえてきた。
 どうやらやっとこの停留所からおさらばできるようだね。
 茜は心底そう思った。
 その時、『梨花』が茜の顔を凝視していた。
 
「なんだい? 言いたいことがあるのならいいな」
「…………茜さんは私達のことを、どうするつもりですか」
「どうするって?」
「……警察に言うとか」

 刹那茜は鼻で笑った。

「馬鹿言わないでおくれよ。何が悲しくてこの世界の警察に厄介にならなきゃいけないのさ。後は勝手にしな。私しゃ一言で言うのなら言うだけで言う名探偵ってやつさ。でもあんた達は人一人殺したんだ。つまり一生お前達は一生人殺しなんだ。言っているいみが判るかい? 安易な手段で殺したことを一生をかけて懺悔するんだ。そして墓に入るときに人殺しはいけないっていう安易なことに悩みつづけたことから開放されるんだ。つまりだ、お前達はその人生をおやっさんという男に捧げるんだよ」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
 
 四人は黙り込んでいた。
 途端、バスがゆっくりと停留所に止まった。そしてドアが開くと、

「ん~ごめんね~! バカチンの知恵が~バス間違って教えちゃたみたい~!」

 間延びした本屋の店員風の女性が顔を出した。

「あんた……もしかして知恵先生が言っていた何でも屋の迦遼アヤカさんかい?」
「にひひ~せいかい~」

 子供のように無垢な笑みを茜に浮かべた。
 茜はバスに乗り込もうとする。
 その時、着物の袖を摘まれたような感触を感じ見ると『梨花』が困り顔になりがながら凝視していた。

「…………私は、赦される?」
「さあね。私しゃ神様じゃないんだから。でもこの世界に神様がいたとて私は神様に赦されるなんてことは絶対にしないね。だって赦すも赦さないも私自身なんだからさ。だからあんたもどうやれば自分を赦すことができるのか、じっくりと考えな」

 くしゃ、と。
 茜は梨花の頭を撫でた。笑みを浮かべながら、『梨花』の不安を和らげていた。
 それは母のように。
 改めて茜はバスに乗り込む。今度は摘まれるような感触はない。
 そうしてバスは再び走り出す。
 茜はちらっと窓から『梨花』達を眺めた。
『梨花』は少し安堵したような顔をしていた。
 そうして雛見沢停留所から離れていく。
 
「ん~それでこの世界どうだった~」
「どうもしないよ。まったく、とんだ母の日だよ」

 茜はそう嘆くとアヤカはそうかもね~と満面の笑みを浮かべていた。


事の始まりは茜がお魎のために母の日のカーネーション探しである。市販されている色のカーネーションを茜はイマイチぱっとしないね~と言いながら避けてきた。でも特別な色のカーネーションをお魎に渡したいという気持ちが募っていた。
 その時にたまたま雛見沢分校で娘の魅音の担任でもある知恵留美子に相談すると、何でも屋をやっている知人がいるからそこで探しませんと諭してきた。
 そうして知恵が教えもらったバス停から行く予定だったのが別の世界の『雛見沢停留所』に行き着いたのである。

「それにしてもあの世界はなんだったんだい? なんだか新鮮だけど不思議な世界だったよ」
「ん~そうだね~。あれは~茜さん達のいる世界の~原作みたいな感じだからね~」
「原作? なんだか私達の住んでいる世界の方が副産物みたいで嫌な気分だねぇ」
「ん~そんなことないと思うよ~。原作はあくまでも原作で~茜さん達が住んでいる世界は茜さん達の住んでいる世界だよ~」
「…………あんた、不思議な人だねぇ。まるでオヤシロ様みたいだよ」

 茜は心底そう思った。一見すると栗色のお下げ、魅音のクラスメイトであり仲の良い北条沙都子と同様の八重歯、エプロンをかけて『でちゅでちゅ』と茸のイラストをプリントされた本屋の店員風の女性。
 でも天真爛漫な笑み。裏表のない表情。それが茜でさえも畏怖するぐらいだった。

「ん~オヤシロ様っていうと違うね~。あたしはいるときにいて、いないときにいないそんな人だからね~。一言で言うのなら隠れキャラだから~」
「ならあんた何者だい? 他の世界を行き来するなんて神様以外に考えられないよ」
「あはは~神様って大げさだよ~。それに神様だなんて~なろうと思えば誰だって神様だよ~。ようは気の持ちよう~」

 邪気のない顔で笑うアヤカを見て、茜はふうと溜息をつき、まあ深く考えるものでもないしねぇと思った。
 と、茜はアヤカの脇にある花束に目を向ける。それは瑠璃色のしたカーネーションだった。
 アヤカは茜がカーネーションに目をやっているを見て、嬉しそうに言った。

「ん~これ~約束のものだよ~。知恵のバカチンがミスったからあたしが届けてきたの~。ごめんね~」
「まあ、いいさ。それにしても綺麗な色をしているね。母さんに渡すには惜しい花だよ」
「ん~茜さんってお母さんでしょ~。なら自分のものにしちゃったら~?」
「あはは。自分の物にしちゃったらこんなに奔走なんてしてないさ。私にとっちゃお母さんは園崎お魎一人だけなんだからさ。あんたも母の日にプレゼントをあげたことないかい?」
「ん~あるようなないような感じだね~」
「なんだい。やけに曖昧だねぇ」
「でもあたしはみんなにいい顔をしてもらいたいから色々やっているんだよ~。だから曖昧は適当かな~。でもね~あたしが楽しくて、みんなが楽しめればいいんじゃないのかな~て思うんだ~」
「なかなかいい考えを持っているじゃないかい」

 バスはがたんと揺れて振動しながら進めていく。

「ん~ねえ茜さんは世界ってどう思う~」アヤカが訊いてきた。
「なんだい。やけに大雑把な質問だねえ。世界か、そうだねえ~私が楽しめればは前提で、後は魅音や詩音達が面白可笑しく暮らせる世界があんたの言う世界ってやつじゃないのかね」
「ん~それって茜さんの住んでいる世界じゃないの~?」

 茜は呆気にとたれた表情をした後に、

「…………くっくっくっく。あーはっはっは! そりゃあ一本取られたよ。うん、なんだかとっても愉快だよ。あんただったら名探偵でもいいかもしれないねえ」

 屈託のない笑みを浮かべた。するとアヤカはぶーと拗ねた表情を浮かべた。

「そんなに笑わないでよ~ん~でも名探偵は~あたしじゃ勤まらないかな~。名探偵って社会不適格者の集まりでしょ~」
「あーっはっはっは! あんた傑作、傑作っ! 私を笑い死にさせる気かい」

 茜はさらに笑った。
 彼女こそ名探偵に相応しいと心のそこから思ったのだから。
 今日こそ愉快な日はないねえ。
 バスの中では笑いは絶えなかった。

 暫くしてバスは止まった。
 茜は家までどうだいと誘ったがアヤカは他に用があるらしくここでお別れ~と言った。
 残念だねえ。
 茜は心底残念がっていた。
 ぐしゃとアヤカは約束の瑠璃色のカーネーションを茜に渡す。
 
「ん~じゃあ、茜さん。また用があったら知恵に連絡してね~」
「あはは。是非ともまた名探偵と会いたいねえ。今度は飲み明かさないかい? 私と知恵先生と鷹野三四さんと一緒にさ」

 考えておくね~と相変わらず間延びした口調で答えるアヤカ。
 そうして茜はバスを降り、バスが動き出すのを眺めていた。
 ふと空を仰ぐ。
 眼下に広がるのは雲一つない晴天と一直線に伸びる飛行機雲。
 まったく、いい天気だねえ。
 途端、遠くの方からお母さんと声が聞こえてきた。見るとそこには園崎魅音と園崎詩音、それとなぜか古手梨花も一緒にいた。
 魅音と詩音はいいとして、梨花も一緒とは意外な組み合わせだねえ。
 徐々に近づき、会話できる距離まで対峙する。
 どうしたんだい?
 訊くと彼女達は一輪のカーネーションを茜に渡してきた。
 これはと答える。
 すると魅音、詩音は母の日だからと照れながら答えた。
 なぜ梨花が一緒にいたかと言うと部活の一環であり、母親がいる家にいない子供はお邪魔するものだった。
 前原圭一の家には竜宮レナ、沙都子、魅音の家には梨花といった具合に分裂した。同時期圭一の家では、圭一がメイド服で母の日を奉仕するというプレイをして楽しんでいたが魅音がそのことを知って心底悔しがったのは翌日のことであった。
 閑話休題。
 茜はカーネーションを貰えるとは思っても見なかったので吃驚した表情を浮かべて、ゆっくりと笑窪を含みながらありがとうとカーネーションを貰った。
 ふと茜はバスの中でアヤカが訊いてきた質問を思い出す。
 ん~ねえ茜さんは世界ってどう思う~。
 どうもこうもないさ。
 今日は母の日。
 今こうしていることが私の望む世界そのものさ。


                                        おわり

2007/12/22 22:18 | SSCOMMENT(0)TRACKBACK(0)  

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 | BLOG TOP |