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雛見沢停留所にて


 空を仰ぐと雨が降っていた。
 夕立とも霧雨とも違う本格的な雨模様。
 いやだよ~と園崎茜は嘆息しつつ雨宿りする場所を探していてた。
 しばらく闊歩していると木造の古びた停留所が見えてきた。
 見ると未だにダム闘争の名残のビラが所狭しと堆積していた。
 この場所だけは相変わらずだねと茜は思ったがいつまでも雨に濡れるのは癪なのでその停留所にて雨宿りすることにした。
 そして停留所にて、

「あ」
「あら」

 茜は竜宮レナと邂逅することとなった。





     雛見沢停留所にて






 竜宮礼奈は園崎魅音と園崎詩音の友達である。だが今までこうして二人っきりで会う機会はなかった。それも仕方ないだろう。子供の友達と二人っきりで会うなんて機会はそうそう訪れない。その逆もしかりである。
 つまり茜とレナはそのそうそう訪れない機会を訪れたのである。
 ぴちゃぴちゃと雨音が木造で作られた停留所の屋根を跳ねる。

「一体どうしたんだい、こんなところで」
「えへへへ。実はお散歩していたら急に雨が降って、それで雨宿りのためにこちらにしばらく逗留していたんです。で、その・・・・・・確か魅ぃちゃんと詩ぃちゃんのお母さん、でいいんですよね?」

 訝しがりながら尋ねるレナ。そういえばお互い自己紹介をしていなかったなと茜は思った。直ぐに教えても良かっただろうが、ここで少し悪戯心が働いた。

「あら、私はそんな娘なんて持った覚えないね。生憎独り身な生活なんだよ」
「え? そうだったんですか!? レナ、間違えちゃったのかな、かな?」

 レナは顔を火照りながら恥ずかしそうな表情をした。

「あははは。冗談だよ、魅音も詩音も私の娘だよ。私の名前は茜っていうんだ」
「あ・・・・・・い、意地悪なんですね」
「ごめんよ。あまりにもレナちゃんの顔が初心で純朴そうな表情をしていたからさ」

酷いですーとレナは頬を膨らまし拗ねた表情をしていたがそれさえも愛嬌に思えるほど可愛いと茜は思ってしまった。
 雨はやむ気配はなく強い雨脚が地面を打っていた。

「それにしてもどうして茜さんがこちらに?」
「ん? 私かい? 私もレナちゃんと同じ理由さ。姑の会合に付き合って散歩がてら闊歩していたら雨が降られていてこの場所で雨宿りをしようと思ったらレナちゃんと会ったてことなのさ」

 そうなのですかとレナは相槌を打っていた。

「ところでさ、レナちゃんは誰か好きな人がいるかい?」
「な、ななななな!? 茜さんは一体何を言っているのだろ、だろ?」
「好きな人さ。レナちゃんや詩音の年齢になれば色恋沙汰の一つや二つは経験しているだろ。よかったらお姉さんに一つ訊かせてはくれないかい?」
「ど、どうしてそんなことを!?」
「決まっているだろ? 暇潰しさ。それに人生経験のあるお姉さんが無償で相談してようって言うんだからこんな気前のいい女性そういないさ」
「ぶー自分で気前がいいって言う女性は大抵気前なんてよくないですよ」
「あははは。それはひねくれ者の考えだね。さあそんなことはいいから話してごらんよ。それとも何かい? 唐突だと話づらいかい? だったら私の方から喋らせてもらうよ。何、私の恋愛譚を語るのではなく娘達さ。あの子達も体は十分大人なのに中身はまだまだ子供だね。短絡的と言っていいのかな。ようするに目の前のことで精一杯なのさ」
「・・・・・・それは魅ぃちゃんと詩ぃちゃんのことを貶している発言なのですか?」

 刹那レナは攻撃的な眼孔をしてきた。普通の者ならそれだけで畏縮するものだが茜の場合はむしろ微笑んでいた。

「なかなかいい度胸と眼差しをしているね。でもまだ子供だ。言っておくけど娘達ぐらいの年頃は目の前のことで精一杯で十分なのさ。むしろそうしないと素直な大人になれない、てね。だからレナちゃんぐらいな年頃で酷く達観している方が虫酸が走るんだよ。私の言っていること、判るだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」

 レナ下唇を噛みしめていた。

「そう。それぐらいの眼差しの方が年相応で可愛らしいよ。ならそろそろレナちゃんの色恋沙汰を聞かせてはくれないかい?」
「・・・・・・レナは」

 すると一瞬言葉を呑み込んでから、再び喋りだした。
 それは一人称のレナから私に切り替える瞬間だった。

「私は同級生の前原圭一くんが好きなの。でも、魅ぃちゃんも彼のことが好きで、だから、私は」
「ふ~ん。つまり家の娘である魅音とレナちゃんは恋敵ってわけなんだね。そして当の当事者である前原圭一は鈍感で気づかない、てわけだ」
「えええ!? どうしてそこまで判るのですか?」
「あははは。初歩的なことだよワトソン君。大体男なんてものは一点集中型が殆どなんだから色恋沙汰のようなうわついた話題になると点で無頓着で、だから鈍感なのさ。逆に女はそういう感覚、というより観察能力が鋭いから何でも察してしまう。どうだい? 思い当たる節はあるだろ?」
「・・・・・・そうですね。これも人生経験がものを言ったからですか?」

 茜はそうさと答えるとレナはしばらく沈黙した後、「はぅ」と呟いた。

「だとしたらお父さんもそうなのかな。・・・・・・あの、不躾で悪いとは思いますけど少し私の話を聞いて貰えますか?」

 茜はなんのことが判らなかったが「いいよ」と答えるとレナは父親の話を始めた。妻が男を作り離婚後、雛見沢に越してきた後間宮律子という女性とレナの父親が交際している。それに干渉するつもりはない。お互い大人のつきあいだし、子供がしゃしゃり出ることないと思う。だけれどレナは憂いでいた。間宮律子という女性が父親のお金目当てで付き合い、頃合いを見計らって化けの皮を剥がすのではないのかと。実際に興宮のとある喫茶店でリナとチンピラ風の男がそんな話を耳にしたのだから。

「へぇ。間宮リナね。あ、それとレナちゃんの質問の解答だけどさ、調子に乗るなって感じだね」
「えっと、それは、一体誰を」
「そんなのレナちゃんしかないじゃない」
「な、なんで私なんですか!? だって私は・・・・・・」
「思いやりのつもりで行った行動だろうと思うけど言わせてもらえればさ、そんな中途半端な気遣いは結局の所一番最悪なのさ」
「・・・・・・なら私はどうすればいいんですか」
「そんなの決まっているだろ。片意地を張らず妙な意地なんて張らず素直になればいいんだよ。そうすれば親御さんの問題も解決されるさ」
「そんな、だって私、リナさんやお父さんとこの話題をまとも話した事なんてないのに。それに・・・・・・」
「だから子供なんだ、ていうんだよ。子供は素直が一番なんだ。素直だから胸に響く。それに屈しない意志を加えれば『覚悟』となる。違うかい?」

 レナは口籠もったままだった。
 ぴちゃぴちゃとした雨音は先程に比べれば幾分マシになった。
 もうそうそろそろ止むだろうな、と茜はふと思った。

「実はさ、この場所にはちょっとした縁があるのさ」

 茜はレナの顔を向いて語りだした。
 人に話すのは憚られて、それでとてつもなく滑稽な話なのに。

「昔私もさ、夫との結婚を巡って姑とのいざこざがあって逃げ出したいくらいのことがあったのさ。でいつしかこの場所で逃げ込んできた。ここ、何もないし昔から何かを寄せ付けないオーラを醸し出していて、人気がとにかく少なかったから一人になるには十分な場所だった。まあ今だこの場所が停留所として機能しているか甚だ疑わしいけどね。で話を戻すけど、その時も雨が降っていて雨宿りのために来たのさ。それで一人考えた。ずっとどうするべきなのか悩みに悩んだ。それで至った結論が自分に素直になろう、てことだったのさ。まあ今となっては終わった話だけどね」
「それで」
「ん?」
「それで、茜さんはどうなったんですか。その後」

 あははと茜は微笑した。
 その態度にレナは少しむかっとした。

「なんか安易な結論を求めないかしないかい? そんな小説の起承転結じゃあるまいし世の中というのはそうそうよくは動いてくれないのさ。でも別に悪くも動いてはくれない。それが唯一の結論かな」
「それじゃあ」
「幸も不幸もないただただ日常を生きる、ただそれだけのお話なのさ」

 雨音がしなくなったのでふと空を見ると雨は止んでいた。
 これぐらいの天気なら歩いても大丈夫だろう。
 茜は立ち上がった。

「雨が上がったみたいだけど、レナちゃんはこれからどうする? まだここにいるのかい?」

 するとレナも立ち上がった。

「いえ。私も家に帰ろうと思います。帰ってちゃんとお父さん達と話をしたいから。最初は話を訊いて貰えなくても何度でも何度でも話しかけてみせます」

 そうしてレナは深々とお辞儀をしてきた。

「別に私は何もしちゃいないよ」
「いえいえ。人生豊富なお姉さんのアドバイスを教えて貰ったから後輩として当然の行いをしたまでです。それと魅ぃちゃんに伝えて欲しいことがあるんですけど、いいですか?」
「何だい、一体?」
「負けない、て」

 茜はそうかいと微笑むとレナもはいと笑みで返してきた。
 そうして二人は停留所から出て別々の方向に歩き出した。
 茜はゆっくりと闊歩して園崎家に近づくと声を荒げている魅音がいた。彼女の隣には詩音もいる。
 この二人はずっと仲良しだと思う。
 だからこれからも仲良しなのだと思う。
 そうなって欲しいと思うから。

「まったく、お母さん。どこいっていたのよ。婆ちゃが心配していたよ。今日は冷えるから、て」
「相変わらず心配性だねえ。たかだか数時間で凍傷するほど人間の体は作れていないんだからさ。ま、心配させた責任として顔でも出しておこうかね。あ、そう言えば今日魅音の同級生のレナちゃんと会ったわよ」
「え!? なんでレナとお母さんが会うわけなの!? そんな奇特なシチュエーションがあったなんて信じられない」
「信じられないのはお前の方だよ、魅音。それでレナちゃんが負けないって言っていたよ」
「負けない? 一体何のことだろう?」

 すると詩音がその言葉の意図に気づいたらしくはは~んと魅音を窘める表情をした。

「相変わらずお姉は初心ですねえ。ハッキリ言ってレナさんはやる気です。圭ちゃんの首に縄を二十三重に巻き付けておかないとレナさんに奪われちゃいますよ」
「ななな!! 詩音はどうしてそんなこと言うかなー!! だったら詩音だって・・・・・・」
「『詩音だって……』 なんですかお姉? もしかして言葉が続かないのですか」
「……ああもうその通りよ!!! どうせ私は初心で圭ちゃんの首の縄を二十三重巻き付けられないよぅ~!!」
「まったく二人はこういう話題本当に好きだねえ」

 茜がそう呟くと詩音ははいと頷いた。

「ともかく立ち話も家に入ろうよ。お萩も欲しいからね」
「また婆ちゃのお萩食べるの~。太るよ~」


 ぽかん!


「バカでも太るなんて言わない!!」

 魅音は頭を撫でながら「ぶー、本当のことを言ったまでじゃないー」と口答えしようと喉の所まで出かかっていたが、なんとか制止した。
 茜はふと空を仰いだ。
 雨上がりの虹の中を通過するかのように一直線に伸びる飛行機雲。
 雲間もないのでそれが極まって目立って見えた。
 魅音と詩音も空を見上げていた。
 まあ色々あったが。
 世の中は上手く回るし上手く回らない繰り返しなのだと思う。
 多分それが幸せといういい話なのだろう。
 
 
 
 

                                  おわり

2007/12/22 22:12 | SSCOMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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