FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/-- --:-- | スポンサー広告  

ARIAーShort Story- その素敵な今を…

いくいです。
ARIASSの公開です。

お話しの方をよろしければお楽しみくださいませ。

ネタバレ注意です。
またコミックス全巻読了後、アニメ三期まで視聴後の方がよりSSの雰囲気に浸れるのではないかと思います。

最後にこのSSに携わった多くの方に感謝いたします。
それでは、お手をどうぞ。


original:天野こずえ『AQUA』『ARIA』(マッグガーデン)
story:いくい
illust:あくぁまりん
                    (敬称略)







 肌に風が当たっているのがわかった。
 凪ぐ髪にゆらゆらと心地よい感触。
 ぷぷいにゅー。

 ……ぷぷいにゅー?

 私はゆっくりと目を開けた。
 寝ぼけ眼の瞳にまず飛び込んできたのはぽんぽん。
 …………。
 私は顔に引っ付いているものを両手で掴んでゆっくりと持ち上げる。 
 そこにはアリア社長が眠っていた。
 アリア社長は私、アイが勤めているARIAカンパニーの社長さん。水先案内人(通称ウンディーネ)にとって青い瞳の猫は「アクアマリンの瞳」と呼んでいていて、かたやお守り、かたや象徴として扱われている。
 その時アリア社長がゆっくりと目を覚ました。
 それに気づき私も身体を起こす。さすがに寝ながらアリア社長を持ち上げるのは限界……。
「ぷいにゅ?」
「あ、アリア社長。おはようございます」
 アリア社長はおはようと言うように「ぷぷいにゅ」と声を出した。喋ることはできないけの人間の言う言葉は理解するみたい。
 私はふと空を眺めた。
 既にすっかりと日もあけて…………あけて?

 その瞬間私は一瞬にして顔色がブルーになった気がした。
 近くにあった目覚まし時計をみると7時を回っていた。本当なら6時ぐらい起きるのが普通なのに……。
 アリア社長の仕業なのかそれとも私のせいなのか、よくわからなかったけど私は急いでベットから起きあがり着替えを始めた。
 その姿をアリア社長はどこか申し訳ないようなそんな表情をしていたけど、私はアリア社長の頭をなでで「大丈夫ですよ」と笑みを零しながら言った。
 だって、今更あれこれ言っても仕方ないもんね。
 そんなことより私は着替えに集中することにした。

 着替えが終わると階段を下りるとキッチンの方からいい匂いがしてきた。
 と、私に気付いたかのようにそこにいた女性は挨拶をしてきた。
「おはよう。アイちゃん」
「……あ、灯里さん。遅れてすみません! その」
 最大限の謝罪をする私。
 それを見て女性こと灯里さんは笑っていた。
「ぐっすりといい夢みられた、アイちゃん?」
「え、と…………はい」
「よかった。じゃ、朝食の準備、手伝ってくれるかな」
 私は「はい」と答えると灯里さんは笑みを浮かべながら一緒に朝食の準備を再開したのだった。

        
                                
                    ◇


 灯里さん……水無灯里さんはARIAカンパニーのウンディーネ、プリマ(一人前のこと)で「遙かなる蒼」(アクアマリン)という通り名で呼ばれている、とにかくウンディーネを目指すのなら憧れの存在。
 私が灯里さんのことを知ったのはまだ灯里さんがシングルという半人前の頃。昔お姉ちゃんのアリシアさん話……というか自慢話が嫌で、だったら会って確かめちゃえっ! みたいな感じでお父さん達にお願いして火星に連れて貰ったときに灯里さんに出会ったの。
 それから灯里さんと何度もメールのやりとりをした仲になって、いつしか灯里さんみたいになりたい、て思ってウンディーネという職業を選んだんだ。
「はぁ~」
 と長いモノローグを回想しながら私は深い溜息をついた。
「あわわ、アイちゃん。どうしたの。今日はご機嫌よくないのかな?」
「あ、灯里さんは関係ないよ。あはは」
 手をぱたぱたさせながら私は必死に苦笑しながら誤魔化した。まぁ誤魔化せきれているのかはわからないんだけど。
 その時アリア社長が私の傍に寄ってきた。
 心配そうな表情で蒼い目を澄ませながら凝視している。
 それを見て、私ははぁと溜息を吐いた後、少し恥じらいながら言葉を発したのだった。


                ◇


 朝食を終えてから私は電話番をしたり、スケジュール管理などの事務業務に追われていた。
 なんたってARIAカンパニーの看板は灯里さんだけなんだもん。
 はぁ……なんか全部灯里さん任せって感じがするな。
 でもそのことを灯里さんに言うと笑って『大丈夫だよ。私もシングルの時はそうだったから』と答えていたけど。
「なにやっているんだろうなぁー、私」
 と思わず自戒しちゃったりもしている。
 早く灯里さんの役に立ちたい。
 早く灯里さんのようにウンディーネとして活躍したい。
 ……な~んて意気込んで火星まで来たはいいけど、実際私って全然駄目駄目。
 なんだろう。自分でも判るんだよね。
 灯里さんは心底……と言えば失礼になっちゃうかもしれないけど目に触れたもの、肌に感じたもの、想ったことを身体から、行動から、表現しちゃう。
 だからね、灯里さんと一緒にいるとなんの取り得もない私も嬉しい気分になっちゃう。
 自分でも何か出来るんじゃないのかな、て錯覚しちゃう気がする。
 けど、それは所詮錯覚なの。
 灯里さんみたいになりたいと思っても、灯里さんみたいに近づきたくても……今の私には到底届かない。
 だからこうして下々することしか、できない。
 結果、そんなネカティブな思考なためか練習にも身が入らなず……自己嫌悪。
 その時ARIAカンパニーの電話が鳴っていた。
 内容は要約すると灯里さんのゴンドラに乗りたいという電話。
 声も若くて……若いというよりも子供の女の子かな。
 私は飛び入りの予約は難しい旨を伝えると、ショボンとした声で電話が切れた。
 ……乗せてあげたいけど、難しいよね。
 ってあれ、このシチュエーション以前どこかで。
 隣にいたアリア社長にそのことを言うと社長は相変わらずぷいにゅ~と鳴いていた。

「はぁ……」
 さて事務仕事を終えたし後は自己練習。
 でも溜息しかでなかった。
 なんていうか……ネオ・ヴェネツィアに流れている水面や街影はこんなに煌びやかで、賑やかとしているのにまるで私だけが取り残されている感じ。
 灯里さんは一人だけじゃ練習に身が入らないよ、とか言って前に姫屋カンパニーの藍華さんやオレンジプラネットのアリスさんの教え子さん達と合同練習を企画してそれに参加したことがあったけど……でも結局こうなっちゃった。
 別に誰かが悪いわけじゃないの。
 別に誰かのせいにしたいわけじゃないの。
 ただ、私は灯里さんや藍華さん、アリスさん達がいたARIAカンパニーを過度に求めていた。
 だって、灯里さんがメールで綴ってきた文章が凄く嬉しそうで、楽しそうで……私までそんな気になっちゃうんだもの。
 でもそうはいっても私もARIAカンパニーの一員であり、プリマを目指していることには嘘偽りはない。
「さあ、社長。練習に行きましょうか!」
「ぷぷいにゅ~」
 と、私はネカティブな感情を振り払って、練習用ゴンドラ乗り場までの足を速めた。
 まぁすぐそこなんだけどね。
 そして練習用ゴンドラに到着……したところで異変が気付いた。
 異変というか異物というか……というよりゴンドラの底のところに可愛らしい女の子が隠れていそうで実は隠れていなかった。


完成(星記号あり)


「あ、あの……」
「…………こんにちは~☆」
 彼女はにっこりと笑顔で挨拶。
 すると彼女はゴンドラで隠れることをやめて出てきた。
 見た感じは清楚なお嬢様を絵に描いたみたいな感じ。
 腰まで黒々としていた髪の毛が印象的。
 でもゴンドラの中で髪の毛を特に気にすることなく隠れていたみたいで、ところどころ埃があった。
 それを指摘すると彼女はえへーと笑いながら埃を払っていた。
「その、お客様ってもしかして今朝電話してきた」
「あ、じゃあお姉ちゃんが灯里さん?」
 私の質問を全部言い切られる前に先に質問を返してきた。
 私はやんわりと違うと答えると彼女はあからさまな態度ではぁと溜息を吐いてきた。
「そっかー。まぁ判っていたことなんだけどさー」
「え、と……で、でね。これから私練習しなきゃいけないから、どいてくれないかな」
「え、なんで? だってお姉ちゃんもウンディーネなんでしょ?」
「あはは。そうなんだけど……まだ半人前でお客様を乗せられるようなレベルじゃないから」
 まぁついこの両手袋(ペア)(見習い)から片手袋(シングル)(半人前)になったからプリマの灯里さんが同情できれいてば安い料金で乗せられることもできるんだけど、でも私一人しか今いないからなぁ。
 と、彼女はまたもにやりと笑みを浮かべて、私の手を握ってきた。
「あたし、アサミっていうんだー。お姉ちゃん、名前は?」
「え? 私? 私の名前はアイだけど」
「アイお姉ちゃんかー。じゃあ、あたしとお姉ちゃんは友達。だからいいでしょ?」
 …………えええええ!?
 今、完全に思い出した。
 彼女、アサミちゃんって灯里さんと最初に会った頃の私そのものだった、て。



                   ◇
 
 
「どんぶらこーどんぶらこー」
「ぷぷいにゅーぷいにゅー」
 …………あー。
 ということでお友達となったアサミちゃんを乗せて自己練習中。
 だったんだけどゴンドラが凄い揺れていて……まぁ揺れているのは私のせいなんだけど。
「ねーねーお姉ちゃん。なんでお姉ちゃんのゴンドラってこんなに揺れているのー」
 実に痛い一言。
 なんで……って苦笑いしながら受け答えるしかないじゃない!
「ぷぷいにゅ。ぷいにゃ。ぷぷにゃ。ぷいちゃ」
 と私が返答の気まずさに気付いたアリア社長がフォローを入れようとあれこれジェスチャーをしていたんだけど、まぁ結局それはそれで全然伝わらなかった。
「あははー猫ちゃんもお姉ちゃんのゴンドラ、凄い揺れているんだってー」
 しかも悪い方に解釈されていたのだった。
 うわーん。
 私はちょっとだけ深い溜息を吐いた。
「ねぇアサミちゃん、どうして灯里さんじゃなくて私のゴンドラに乗ろうとしたの? だって灯里さんのことを待っていたんでしょ? それだったら」
「んとね。あたし今日でアクアから帰るから、だからアクアで一番有名なARIAカンパニーの人のゴンドラに乗りたいって思ったの」
「…………そっか。なんかアサミちゃんのことを聞いていると他人事とは思えないよ。本当に」
 え、そうなのと驚き顔のアサミちゃん。
 それから簡単にだけど私は灯里さんと出会ったことのあらましなんかを説明した。
 終始興味津々に話に聞き入るアサミちゃん。
「へぇー。お姉ちゃんって見かけによらず大胆なんだね」
「……まぁ今思うと確かにそうだよね。でも、アサミちゃんも結構大胆だよ」
「えへへ」
 私にそう言われてアサミちゃんはにやけたように笑っていた。
 ふとアサミちゃんは顔を街の方に向けた。
 私も同じように顔を向ける。
 そこには活気に満ちた人盛りと色褪せることのない街並みと火星の気候を管理する浮き島が見えた。
 顔を戻して再びアサミちゃんを眺めるとどことなく憂いな瞳が私に映った。
 それがどうしようもなく、懐かしく、切なかった。
「お兄ちゃんがね」
 とアサミちゃんは喋り出してきた。
「お兄ちゃんがいたの。あたしとお兄ちゃん、凄く年が離れていたんだけど、でもいつも一緒に遊んでくれていたの。そのお兄ちゃんが結婚することになって……それでお兄ちゃんが新婚旅行でこのアクアに来て灯里さんのゴンドラに乗った話をよくあたしに話してくれたんだ」
「へぇ。いいことじゃないの」
 私がそう相槌すると彼女は首を左右に振った。
「ううん。あたし、そういうお兄ちゃんが凄く嫌だったの。だからアクアで旅行してみて、その灯里さんのゴンドラを乗ろうって思ったんだ。けど」
「……そっか。ごめんね、灯里さんじゃなくて」
「いいよ、別に」
 ……やっぱりつまらないのかな、私のゴンドラ。
 やば、なんだか私まで気が滅入っちゃう。
「ぷいにゃー」
 とそんな空気を察したのかアリア社長は突然鳴いていた。
「ねぇ、アサミちゃん。いいところがあるんだけど、寄っていく?」
 ふうと一呼吸置いた後私はそう提案した。
「いいところってどこ?」
「えへへ」
 私はアサミちゃんの質問に笑顔で返した。
 だって言っちゃったらつまんないもん。



                 ◇



 秋の薫りが残る草木を感じながら私達はとあるお店に立ち寄った。
「じゃがバター……?」
「うん。マンホームだとぶつ切りにないから珍しいと思うけどね」
「うん。おっきい」
 立ち寄ったお店はこの時期になると開いているじゃがバター屋。
 そしてこの場所は、私の思い出の場所。
 灯里さん達といて楽しいと初めて想った場所。
「あ、おいしい」
「でしょ。ここのじゃがバターはマンホームじゃ出せない味でしょ?」
 それを聞いて店のオーナーが気分を良くしたのかもう一個サービスしてくれた。
 そんなこんなをしながら私とアサミちゃんはのほほんとした時間を今体感している。
「ねぇアイお姉ちゃん」
「ん。なに?」
「アイお姉ちゃんはウンディーネになって楽しい?」
「…………あはは。これはまた凄い質問だね」
 思わず苦笑してしまった私。
 でもアサミちゃんは決して冗談ではなく、真剣な瞳をしていたのでここは茶化すことは出来ないんだろうな。
 だ、なんて思わず思っちゃった。
 だからこそ、私も微妙な表情と返答をしてしまった。
「……判らないよ。まだ何が楽しくて何が辛いのかさえ判らないまま。でもね、私後悔はしてないんだ」
「そうなの?」
「うん。私がウンディーネに……ううん。アサミちゃんの頃に灯里さんと出会わなかったら、私凄い捻くれた子供になっていたんだと思うんだ。でもそれを修正してくれたのが灯里さんなの。修正というのもへんかもしれないけど……うん、あの時があったから今があると思うんだ。そしていつか私も灯里さんみたいな人間になりたいと思うようになったの。それでウンディーネにというのは安直だったかなてちょっと思うけどね」
 と私は笑みを浮かべた。
 それはまるでアサミちゃんというより私自身に問いかけるような言葉。
 今……なんで、なにに彷徨っているのかさえ判らないままだけど、でも、そういう風になりたい。そんな風になりたい。
 そんな想いを口に出していた。
「ふうん。でもあたし、ちょっとその考え方違うと思うな」
「え、そうなの?」
 と、私は思わず訊いてしまった。
 そしてアサミちゃんはにやりと笑顔を浮かべながら、言った。
「アイお姉ちゃんは灯里さんになりたくてもなれないでしょ? だって、アイお姉ちゃんはアイお姉ちゃんなんだもん。誰かの代わりになる必要なんてないんだよ。その方がずっと、ずうっとアイお姉ちゃんらしいなって思うな」
 刹那風が一瞬強くなり髪が力強く凪ぐ。
 落ち葉とのコントラスト。
 私は……うん、素直に納得しちゃった。
 まだ自分よりもずっと年下の子供なのに。
 でも、とても大切なことを教えてもらったの。
 誰かの代わりなんてできないこと。
 誰かになんかになれないこと。
 ……私はどこかでなりたかったのかもしれない。
 私がなりたかったウンディーネって灯里さん達がシングルだった時のなんだって。
 灯里さんとメル友をして、実際に接して楽しんでいた時のなんだって。
 でも時間に変わりはできないの。
 時間に同じなんてできないの。
 私がしばらく黙ったまんまだったからアサミちゃんはどうかしたの、と怪訝な表情を浮かべていた。
 私は笑みを浮かべながらなんでもないよ、と答えた。
「お姉ちゃん。なんか凄くいい顔をしているね」
「うん。だって嬉しいんだもん」
 その言葉に偽りはない。
 だって本当に嬉しいんだから。
                             
                  ◇


 それから私はアサミちゃんを連れて普段では通らない道……というより私の技術で通れるところを案内した。
 まぁ全部灯里さんの受け売りなんだけど、でもアサミちゃんが私の案内で感嘆して、驚いて、嬉しそうな表情が……どうしようもなく嬉しかった。
 それはとても初歩的なことだけど、でも私はそれを忘れていたんだ。
 この仕事が……ウンディーネという仕事が好きなんだってことを。
 そして案内の締めは……やっぱり定番だよね。
 私はアサミちゃんをつれて大鐘楼に来た。
 いつもと違う風景。
 いつもと違う光景。
「うわぁ……凄い」
「うん……そうだよね、凄い」
 思わず私も相槌してしまう。
 何ら変わらない風景なのに、落ちる夕日とそこに行き交う街並み、同じように見えて実は同じじゃない。
「……今日は楽しかったよ」
「アサミちゃん、ゴメンね。あまり面白くなかったでしょ? 今日灯里さんに乗せて貰うように頼むから」
 するとアサミちゃんは首を左右に振った。
「いいよ。あたし、アイお姉ちゃんにいっぱい楽しませてもらったから。ねぇあたし達友達……だよね」
「うん。そうだよ」
 怪訝顔に訊いてきた質問に私は笑顔で答えた。
 それを見てアサミちゃんもにやりと笑みを浮かべながら答えた。
 と同時にアサミちゃんの隣でお疲れになったのか半分寝ぼけ眼のアクア社長がとても微笑ましかった。
 
                          
                 ◇


 気がつけば夜。
 私は朝と同じように寝間着姿になりながら空を眺めていた。
 アリア社長も一緒になってなんてこともない月夜を眺めている。
「はひ。アイちゃん、どうしたの」
 と刹那、私の隣にいた灯里さんが訊いてきた。
 ちなみに今日は灯里さんもお泊まりをするようで(普段は近くのアパートに住んでいる)寝間着姿で直ぐ横にいたの。
 ……だから、なんだか凄い近くて、直視しちゃうとちょっと恥ずかしいんだけどね。
 私はくしゃりとした笑みを灯里さんに向けた。
「今日、とってもいいことがあったから、つい」
「アサミちゃんだっけ。なんだか話を聞いているとアイちゃんのことを思い出しちゃうなー」
「あはは。それ、私も思っていたよ。ちょっとだけあの時の灯里さんの気持ちがわかっちゃったな」
「でもアイちゃんの方がもっとひどかったかも」
「ちょ、灯里さん、それ、ひどーいよー!」
 冗談だよ、と灯里さんは笑って誤魔化していたけどそれでも酷いよー。
 私の時はアサミちゃんの時に比べてもっとお利口さんだったはずなのにー。
 そんなことを思いながら頬を膨らまして拗ねたような素振りを灯里さんに向けると、急に吹き出してきて私もなんだか耐えられなくなって一緒にくすっと笑ってしまった。
「ぷぷいにゅー」
 アリア社長も一緒になって笑った。ように見えた。
「でもアイちゃんの話を聞いていると他人事とは思えないなぁ」
「そうかな。だって私が会った時の灯里さんはもう灯里さんだったから」
「多分ね……アイちゃんが思っている程私は余裕なかったんだと思うよ。だから、アイちゃんに出会えたからそうなったんじゃないかな」
「私に出会えたから?」
「うん。もちろんアイちゃんだけじゃなくて藍華ちゃんもアリスちゃんもアリシアさんも晃さんもアテナさんもアリア社長やグランマ達に出会えたことで……私は私になれたんだと思う。これって一瞬の瞬きに輝く砂時計のような奇跡だよね」
「うん…………あと灯里さん、ちょっと恥ずかしいよ」
「えー」
 ふと藍華さんが灯里さんにいつも「恥ずかしい台詞禁止!」と言っていたのを思い出したけどこれ、ツッコミを入れている方も恥ずかしいよね。
 でも灯里さんの言っていることは間違いじゃないと思う。
 だって、灯里さんがいたから今の私がここにいる。
 ううん。灯里さんだけじゃなくて、あの時私にアリシアさんの話をしてくれたお姉ちゃんがいたから……今があるんだと思う。
 きっかけは人それぞれ。
 始まりはそれぞれ。
 でも私の始まりは確かにそこだったんだと思う。
「アサミちゃんもアイちゃんと出会ったことでこれから素敵なことが沢山出会えると思うよ」
「そうなのかな」
「うん。だって私自身アイちゃんと出会ったことで素敵なことが沢山あったんだもの。間違いないよ」
 そう笑顔で答える灯里さん。
「そういえばアサミちゃん、お兄ちゃんとわだかまりが取れてよかったですよね」
「わだかまりというか、勘違いだっただけなんだけどね」
 と私と灯里さんは今日の最後にあった出来事の話をし始めた。
 私とアサミちゃんがARIAカンパニーに戻ると心配顔をしていたアサミちゃんのお兄ちゃんとその奥さんが待っていて、それから口論に……とゴンドラでアサミちゃんからそういう話を聞いていたの思っていたんだけど、なんだかお互いぎこちない沈黙の後、くしゃりとした苦笑をして、仲直りしたの。
 訊くとアサミちゃんのお兄ちゃんは丁度私達の留守中に灯里さんにアサミちゃんがどこに行ったのか尋ねに来たみたい。
 そこで灯里さんがゴンドラで探しつつ……というか当たりをぐるっと一周して戻ってきただけなんらしいんだけどね。
「ところで灯里さん、アサミちゃんのお兄ちゃんと何の話をしたんですか?」
「特別なことは何も話してないよ。ただアイちゃんと出会った時と似ているなーとは感じてちょっと懐かしくなっちゃっただけ」
「私もそうだよ。なんだか彼女を見ていると昔の私を思い出しちゃった」
 お姉ちゃんがどういう経緯でアクアの自慢話をしていたのか判らなかった私。
 そして今、どこを向かって走っているのか判らない私。
「ねぇ灯里さん。昔に縛られることって悪いことですか?」
「……うん。そうだね。だって私達は今を生きているんだもの。私もアリシアさんが現役を引退した時や藍華ちゃん、アリスちゃんがプリマになってそれぞれの道に歩き出した時に、凄く辛かった。本当は笑顔でいなくちゃいけないのに素直に笑顔になれない私が辛かった。でもね、それって怖がっているてことなの。私達は立ち止まっちゃいけないの。だからアイちゃんが言っていることすごく判る。そしてアイちゃん自身悩んでいると思うの。けど、それじゃいけないと私は思うな」
 そうして灯里さんは一呼吸置いてから笑顔で言った。
「だって、これから素敵なことが待っているのなら怖がっているよりも楽しい方がいいでしょ?」
 その笑顔はとても、とても綺麗だった。
「素敵なこと、か……ねぇ灯里さん、お願いしたいことがあるの」
 何のことか灯里さんは尋ねてくると今度の姫屋、オレンジプラネットの合同練習に参加したい旨を伝えた。
 今まで……今までが悪いわけじゃない。
 でもいいわけじゃない。
 それに灯里さんも言っていた。
 素敵なことが待っているのなら楽しい方がいい、て。
 ……私もそう思う。
 ううん、思いたい。
 だから。
 
 それから私達は楽しく雑談をしていて、気がつくと二人して眠ったみたい。
 目が覚めると横にいる寝顔の灯里さんの顔を見る。
 とても、心地よさそうに眠っている。
 そんな灯里さんのことを見つめて思わずくすっと笑っちゃった。
 だって……灯里さんの言う通りなんだもん。
 
 うん、これからだよね。
 素敵なこと、これからだよね。
 ふと灯里さんの手を軽く掴む。
 とても心地よさそうな寝顔の灯里さん。
「明日から、がんばるね。私」
 寝ている灯里さんに私はそう呟いた。
 どれだけ頑張れるかどうか判らない。
 けど信じたい。
 ううん。信じるだけじゃ駄目。
 私も、楽しまなきゃ。
 これから起こる、その素敵な奇跡を。
 
 

                                  おわり

2010/05/31 00:00 | SSTRACKBACK(0)  

 | BLOG TOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。