FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/-- --:-- | スポンサー広告  

10th anniversary

 
              key 10th anniversary memorial shortstory

                key`s original story by


                    『KANON』




       
               
                      ◇


 白い息。
 遠い記憶。
 つんざくような雪の結晶。

 赤く染まった雪の世界。
 ボクが染めた朱の世界。
 キミは泣いていたね。
 キミは驚いていたね。

 だからボクはどうしようもできないほどもどかしかった。
 キミの涙でさえも拭うことさえ今のボクには出来なかった。

 でも、ボクはキミのことがどうしようもなく、好きだから。
 大好きだから。
 
 その想いを。
 その言葉を、どうしても伝えたくて。
 伝えたくて…。

 たとえそれが夢であったとしても。
 たとえそれが…忘れたとしても。
 
 この想いはホンモノだから。
 …全部、キミがいたから…だよ。



                    ◇


「…変な夢」
 相沢祐一は寝起き早々自ら見た夢につっこんだ。
 と刹那彼の隣にある目覚ましのアラームが鳴り、その本来の持ち主である水瀬名雪の声が収録された目覚ましボイスが祐一の部屋に木霊していた。
『朝~朝だよ~。朝ご飯を食べて学校行くよ~朝…』
「…にしてもなんとかならないのか。この目覚ましは」
 祐一は目覚ましのアラームを止め、そう呟いた瞬間隣の部屋から大音響のアラームが一斉に鳴り出した。
 それを聞き、彼ははぁと軽い溜息を突いた後笑みを零した。
「まぁ…もう慣れたけどな」


                     ◇



 ボクは今日もまた捜し物をしていた。
 何を探しているのかさえ、今のボクには判らないけど…。
 それでも
 でも
 ボクは探さないといけないの。
 だからボクは・・・。
 今のボクは七年ぶりに会ったキミともっと一緒にいたいと強く想った。
 だってボクたちは・・・恋人どうしなんだから。



                     ◇

 
「ふぁぁ~祐一~眠いよ~」
 食卓にて水瀬名雪は今にも眠そうな声で睡眠を妨げた祐一に言った。
 祐一はそれを見てはぁと小さく溜息を吐いた。
「俺だって今日が休日じゃなきゃ名雪の眠りを妨げるようなことはなしないぞ」
「…くー」
「寝るなっ」
 祐一の声に名雪は反応するも、まだ微睡みの中へダイブ中。
 と同時に祐一も困り顔。
 そんな二人のやりとりを名雪の母、水瀬秋子は微笑しながらも嬉しそうな表情をしていた。
「いつもすみませんね、祐一さん」
「あ、いや秋子さんが謝る必要はないですよ。それを言うのならこいつをなんとかしてから、ですよ」
「それは困りましたね」
 頬に手を当てて困り顔の秋子…のはずだが祐一から見ればそれほど困っているようにも見えなかった。
 刹那彼等の行動を傍目でみていた沢渡真琴はにやりと笑みを浮かべていた。
「なによぅ祐一に秋子さんったら名雪を起こすにてんてこ舞いで。ここはわたしの出番のようね」
 栗色のした少女は名雪の前に立ち、そして頬を引っ張った。
「おい、真琴なにを」
「ふふん。見てなさいよー。頬を強く引っ張ったら名雪であっても『い、いたいよー』っていいながら飛び上がって眠気もふっとんじゃうんだから」
「いや、その方法はともかく真琴、お前名雪のものまねすっごく似てないぞ」
「うぐぐ。祐一は一言多いのよ」
「でもそれぐらいで名雪が起きられたら苦労はしないけどな」
「…み、見てなさいよっ! 絶対にわたしの力で名雪のことを起こしてあげるんだからっ!」
 真琴は祐一の言葉に反感を買いながら、必死に名雪の頬を強く引っ張ったが名雪は一向に起きる様子はなかった。
「あぅー。何で起きないのよっ!」
 万策尽きて疲労困憊の真琴。瞳にはうっすらと涙を浮かべていた。
「くー」
 当の本人である名雪はそれでも惰眠という牙城を狼藉することなくひたすら心地よい寝息を立てている。
「…仕方がない。これだけは使いたくなかったけど」
「何よー。何かあるわけ?」
「まぁな」
「なによぉー。他に何かあるのならそれを先に使いなさいよぉー」
 ぶーぶー。
 頬を膨らませて真琴は拗ねるように文句を垂れる。
 祐一は小さく溜息を吐く。
「…秋子さん。名雪にお手製のジャムを」
「うゎっ! お、起きてるよ。わたし、起きてるよっ!」
 名雪は秋子のお手製のジャムと聞いた途端、目を完全に覚ました。真琴もまた秋子のお手製のジャムと聞いた瞬間、普段の彼女とは一変するような、なんともいえない表情を浮かべていた。
「お、名雪。起きたか」
「祐一。意地悪ぅ~」
「まぁいいじゃないか。早く学校に行こう。このままだと遅刻してしまう」
「うんっ!」
 祐一と名雪は言うな否や立ち上がり、その場を後にしようとした。
 しかし。
「待ってください、祐一さん」
「え、と。秋子さん。どうかしましたか?」
「折角ですから私のお手製のジャムを食べませんか?」
「いや、その…食べたいのはやまやまなんだけど時間が…なぁ、名雪?」
「え? えっと、うんっ、だからゴメンね。お母さん」
 二人ともその場を早くやり過ごそうと言い訳じみたことを言うが、秋子にとってそれは逆効果にしかならなかった。
「なら、みんなでパン一枚ずつでいかがでしょうか? それならそんなに時間はとりませんよ」
 秋子は満面の笑みを浮かべながら言い切った。
 その笑みに反論するものは誰もいなかった。
 祐一はふと真琴を見ると全てを悟ったような表情を浮かべていた。そして彼は思うのだった。
 秋子のお手製のジャムは諸刃の剣なのだと。

 
                    ◇

 
 全てが蜃気楼のように霞んでいて。
 思い出が雪のように積もっていて。
 今更、だなんて。
 今頃、だなんて。
 そんな辛辣な言葉が刃を向けているけど。
 
 だから…こそボクはキミに伝えなくちゃいけないと思うの。
 
 とても稚拙で、大切なその言葉を。


                    ◇


「それは相沢君が悪いわよ」
 祐一たちは学校に到着後、クラスメイトである美坂香里に事のあらましを説明、そして祐一のことを一蹴した。
「お、俺のせいかよ。それだったら名雪に言ってくれよ」
「…うー祐一酷いこと言ってるよ」
「うん。相沢君がすっごい酷いことを言ってるわね」
 名雪と香里は事前に打ち合わせしたかのような阿吽の呼吸で祐一のことを責めた。
「だいたいこの子が起きられないのはいつものことじゃない。それを咎めても何を今更、て感じだしね」
「香里。それひどいよぉ。わたしそこまでお寝坊さんじゃないもん」
 名雪は頬を膨らませながら反抗していたが、その光景を見て香里は嬉しそうに笑っていた。
「いいじゃないの。それもこれも全部、相沢君のせいなんだし」
「結局話をそこに戻すのかよ」
「当然でしょ」
 香里はしれっとした態度で言い切った。
 祐一ははぁと深い溜息のあと、もう一人今まで何も発言をしてない北川潤の方を恨めしそうに見た。
「おい、北川。同じ男だろ。何かフォローぐらいしてくれよ」
「いや、この状況でどうフォローをいれろと…」
「それぐらい、察しろ」
「なかなか高い要求をしているっスね」
 祐一がいくら叩き付けても北川は一向にフォローをしなかった。その光景を見て香里はにやりと笑みを浮かべている。
「…はぁ判ったよ。俺が悪かったよ…で、俺にどうしろっていうんだよ」
「あら、察しが良いわね。実は今日の学校の帰りに寄りたいところがあるの」
「だと思ったよ」
 全てを悟ったかのように祐一は溜息をついた。
 それが全ての答えだった。
「えと、ごめんね。祐一」
 名雪は申し訳なさそうな表情で謝ると香里はやっぱり面白そうに笑っていたのだった。
「別にいいのよ。だって卑怯な手を使って名雪を起こそうとした相沢君が悪いんだし」


                      ◇


 ユメ。
 夢には終わりがある。
 夢の最後には必ず暖かい布団の中から目覚める微睡みがある。
 いつからだろう。
 夢に終わりがなくなったのは。
 夢の最後が微睡みでなくなったのは。
 
 全部が夢であってほしい、と思う。
 でも全部が夢であってほしくない、とも思う。
 
 だって全部夢になったら…ボクとキミが出会ったことですら夢になるんだもの。

 
                     ◇


 それから祐一は香里達に付きあい、放課後荷物持ち兼雑務をこなした。解放される頃には茜色の夕日が等に上っていた。
 祐一は疲労困憊で、隣にいる名雪がそんな彼を気遣っていた。
「ごめんね~祐一~」
「別に名雪のせいじゃないよ。にしても香里のやつ、とんでもないな。人のことをなんだと思っているんだよ」
「そうかな。香里も楽しそうだったと思うよ」
「…そうか? まぁいいや。というわけだから名雪、寝るな」
「えー祐一酷いよぉー」
「酷いもなにも元はと言えば名雪がちゃんと目覚めないから悪いんだろ?」
「で、でもぉ~わたしだって努力しているんだよぉ」
「でもな…………やめよう。こんなことを言ってもどうしようもないしな。でも秋子さんのジャムを使ったのは謝るよ」
「そうだね。わたしももっとちゃんと起きられるように努力するよ。ということだから祐一、時計の買い物に付き合ってくれないかなぁ?」
「これからか? もう日が随分傾いているぞ?」
「思い立ったらなんとかだよ~」
「いや、それはどうかと思うけどな」
 祐一は苦笑を浮かべるが嫌そうではなかった。
 名雪もえーと言いながらも満更ではなかった。
 途端ふと祐一は名雪の頭を撫で、突然の行動に名雪は動揺してしまった。
「え、と。祐一?」
「いや、名雪は偉いな~と思ってな」
「ぶー。祐一。わたしもう大人~」
「おや、そうだったけ」
「ふーんだ。絶対祐一に起こされなくてもいいようにするもん」
 名雪はそう拗ねていたが、祐一はそんな名雪の動作が可愛く感じさらに頭を撫でていた。
 名雪もやめてよーと言いながらも頬を少し朱色に染め、満更ではない様子だった。


                   ◇


 全部が幻想であったように。
 全部が泡沫であったように。

 雪は全部包み込んでくれるの。
 嫌なことも。嬉しいことも。悲しいことも…全部。
 
 ボクとキミが出会ったのは…その延長。
 キミがいたから、ボクはいた。
 キミがいたから、ボクはボクでいられた。

 だからほら…もういい加減起きよう?
 だって奇跡はそういうものだとボクは想うから。


                  ◆
 
 
 …目の前には時計があった。
 それはわたしが急かして祐一に選んでくれた目覚まし時計。
 うとうとと身体がついていかない。
 もう寝なきゃいけない。
 でも…もう少し。
 だって、わたしは祐一に明日も起こしてもらいたいんだもん。
 祐一が別の誰かを見ていること、知っている。
 今日は出会わなかったけど…うん、きっと、そう。
 でも…かまわない。
 わたしは、わたしだもん。
 だから、明日も朝ご飯食べて学校行くよ。
 もちろん祐一と一緒にね。

  
            ◇


「うぐぅ」
 そんなボクの目覚めは最悪だった。
 だっていきなり祐一君が…目の前にいるんだもん。
「どうした、あゆ。何か悪いものでも食べたのか? もしかして、またたいやきを盗んできたんじゃないんだろうな」
「うぐぅ! ボクのことをそんな風にして見るだなんて最悪だよ! ちょっと間違えただけだもん」
「いや、そのちょっとがあるからそんな風に見ちゃうんだけどな」
 そういって祐一君は笑っていた。
 ボクは頬を膨らませて拗ねてみせる。ボクは悪くないはずだもん。多分。
「…悪かったよ。あゆ。からかいすぎた」
「うぐぅ。からかい過ぎたのなら初めからからかわないでよぉ。祐一君の意地悪」
 ボクはまた拗ねてみた。今度は祐一くん、少し頬を赤らめていた。
 その仕草がちょっとだけだけど可愛く見えた。
「ねぇ、祐一君。ひとつ訊いていいかな?」
「ん。どうしたあゆらしくもない。一つと言わずいくつでも訊いてこいよ」
「うぐぅ。ボクらしくないってどういう意味なのかな? …それはともかく、ねぇ祐一君。ボク達って…恋人どうしだよね」
「…まぁな」
 少し間をおいて、祐一君は恥ずかしそうに小さく肯定した。
「だったら、ね…祐一君はボクと一緒にいて楽しい?」
「…それはどういう意味なんだ」
 祐一君の問いにボクは少し間を開けてから答えた。
「意味なんてないよ。言葉通り…うん。ボク想うんだ。今祐一君と一緒にいられるっていうのはえいえんじゃないだなって」
「…えいえん?」
「うん。えいえんていうのはね、奇跡みたいなものだと思う。だって…今みたいな関係がこれから先続くだなんて…」
「…じゃああゆ。俺があゆと七年ぶりに再会したのは…どうなんだ」
「それは…」
「あゆは…諦めなかったんだろ。俺との再会を。七年間ずっと」
「うぐぅ…うん。そうだね。でもね、それとえいえんは違うの。違うと思う…」
 そう言いながら首を振った。
 自分でも何を言っているのか判らない。
 祐一君も怪訝顔をしている。
 でもボクは言葉にならない感情を声に出していた。
 だって、今言わなかったら…今言えなかったら…もう二度とこんな機会はないって気がしていたから。
 でも、そんなボクの戯言も…祐一君は聞いてくれた。
 傍にいて、聞いてくれた。
 それだけでボクは嬉しかったのかもしれない。
 でも…そこで満足しちゃいけない。
 感情なんかに邪魔されたくない。
 だから…。
 刹那祐一君はそっとボクの頭を撫でてくれた。
 とても大きくて優しい感触のある祐一君の手。
 それがとっても心地よかった。
 
 

 
                   ◇


 
 小春日和。
 その日相沢祐一は彼女と一緒にデートをしていた。
 つんざくような空気と虚飾の雲の元。
 そんな天候で彼女は言った。

【忘れないで】

 祐一は言った。

【忘れないよ】

 でも、と彼女は言った。

【■■のこと、忘れてください】

 祐一は返答にこまり暫し困り顔をしていた。
 だがその答えに対し、祐一はこう言い切ったのだった。
 彼女はその答えを聞いてほんの少しだが安堵の表情を浮かべたのだった。

「なんで忘れなきゃいけないんだよ」



                                                                       END
 
 


2010/01/11 01:36 | keyCOMMENT(0)TRACKBACK(0)  

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 | BLOG TOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。