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梨花と魔女をやめた魔女

こんにちはikuiです。
まだ真面目モードですよw
今日はずっと制作していたSSを完成しましたので本家に先かげて公開です。
SSは澪尽しアフターの話ですが澪尽し編が未見な方でも大丈夫な内容です。ネタバレしますので注意ですが(汗)
あと今回SSの構成等はおジャ魔女ドレミどっか~ん 第40話『ドレミと魔女をやめた魔女』そのまま活用したものです。
今回初のことで難しかったです。
ですがいい経験になったかなと思っています。

では前振りが長くなりましたがもしよかったらご覧ください





 それはとても不思議な人でした。
 あの人の言葉は今の私には判らない。私が子供なのか、それともあの人が大人だからか。
 でも、いつか。
 私にもあの人の言った言葉が判る日が来るのかな。
 茜色の空に私はあの人から貰ったオルゴールを眺める。
 金属音が織りなす素敵な音色がやっくりと、淡々と音から音へと紡がれていく。
 その様はとても神秘的。

 でも彼女は言った。
 私はこの音色の微妙な変化を、幾末を見届けることができる。
 始まりも、終わりも。
 魔女だからね。
 と。

 ……ねえ、羽入。
 私、どうしたらいい……。



 梨花と魔女をやめた魔女




 昭和五十八年十月。
 いつまでも続くと思っていた毎日が熱帯夜のような暑さはいつの間にか去り、あの耳障りにも、そして心地よいBGMのように鼓膜に響いていたひぐらしの合唱はいつしか聞こえなくなり代わりに鈴虫のリーンリーンとする鳴き声が聞こえてきた。
 半袖やワンピースは、今は冷たい風が肌に厳しい。
 臙脂の色をしたカットソーに同色の薄手のフードのついたカーディガン、膝丈までのティアードスカートに茶色を基調としたニーソソックス。スニーカーも同様に統一感を醸し出すような色合い。
 いつも着ていた夏服は今は押し入れの中。
 あの夏がとても懐かしく。
 そして長く遠く感じられる。
 鷹野三四が犯人と知り、邂逅し、私は見事終わらない六月の運命に打ち勝った。
 でもその代償は大きく、羽入は鷹野三四の身代わりに庇い私と前原圭一の前で息を引き取った。
 否、羽入のことだから死ぬということはないと思う。
 だけど私の前からいなくなったことには違いない。
 そしてそれに呼応して沙都子の兄、北条悟史は目を覚ました。
 沙都子はとても喜んでいた。
 私達も当然喜んだ。
 沙都子は今、悟史と一緒に北条家で暮らしている。診療所で悟史の看病をしていた園崎詩音は現在も北条家に来ている。
 付き添いの葛西に耳五月蠅く泊まることができなくて残念と詩音はぼやいていた。
 たまに葛西が気を利かせると彼女は顔を赤らめて凄く動揺していた。でもなんで気を利かせているのに顔を赤らめるのだろう?

 でも、うん。
 沙都子が元気なのはとても嬉しい。
 私もそれは同じ。
 だけど今家に帰るのは酷く寂しい。
 それは、いつも一緒にいた沙都子が家にはいないから。
 沙都子は私も一緒に北条家で暮らさないかと誘ってきた。
 山狗との決戦で園崎魅音が文字通り命を貼ったことにより北条家の軋轢はなくなってきている。
 また沙都子の容態も前に比べて随分と落ち着いている。入江の治療と悟史が傍にいる、ということが彼女の容態を癒しているのだろう。
 それに沙都子は私が傍にいなくてももう十分心身ともに強い子に成長した。むしろ百年同じ時を経験している魔女である私でさえも凌駕するほどに。
 だから私は彼女との誘いを拒んだ。
 むしろ私は一緒にいてはいけないと、そう感じたのだから。
 公由喜一郎や園崎お魎、それに魅音でさえも一緒に暮らさないかと誘ってきたが、私はそれに頷くことがなかった。
 もう少し今の生活を楽しみたい? 
 ……否、私は、これまで生活の幻影に依存している。
 羽入も沙都子もいなくなった防災小屋の二階をを改造して一人暮らし。寒くなったら本家に戻っての繰り返し。
 羽入がいなくなった分ワインの晩酌のさい小言を聞かずに、沙都子に隠れてこそこそしないで済む反面、いつも一人。
 いつも一人のときでも傍には羽入がいた。
 そして沙都子がいた。
 でも二人はいま、いない。
 ワインを何杯飲んでも、酔いは回らない。
 酒の嗜みでは私の寂しさは埋まらない。
 誰かの暖かさが欲したいと思う。
 でもそれは圭一や沙都子達では埋まらない。
 それは羽入のような。そして私の両親のような。
 でも私は両親であるあの人達のことをよく思っていない。否、思うなんて概念すら持ち合わせていない。
 あの人達はどうせ死んでしまったのだから。
 ようはゲーム盤のようなもの。
 でも、遙か昔、私はあの人達のことを両親と思い、その娘だった。
 
 今では関係のない話。
 私は今日も酒を嗜む。
 いつまでも酔えることのない酒を、今日も浴びるように。




 ある日の下校、私は圭一と沙都子と一緒に帰っていた。
 私は以前に増しておしゃべりに二人に会話をし、二人も楽しんでいた。
 今日は部活がないから、というのも私が妙に明るくなる要因の一つ。 
 Y路地の標識で私は振り向く。
「みー。ところでなのです」
 途端。
 ここであっ、と間。
「これから帰ってにーにーのために晩ご飯を準備しなければいけませんわ。本当にごめんなさい、梨花」
 沙都子は申し訳なさそうな表情で謝り、私と圭一を後にした。
 夕飯の準備なら仕方がないと思いふうと溜息をつく。
 じゃあ圭一と私は声をかけると圭一も沙都子同様訝る表情をしていた。
「俺、これから魅音のところに行って家庭教師しないとけなんだ」
 そうして圭一も私の前から去っていった。
 Y字路地標識のところで私はぽつんと佇んでいた。一方は私の家までの道。
 でも今の私は家に帰ってもやることがない。
 酒を浴びるだけ。
 そう思うと自然と足は普段行かない道へ進んでいた。
 
 雛見沢は寒村なので一本道が多い。
 だけど普段行かない道は入り組んだ階段や裏路地などあまりお目にかかれないものが私の前に待ち構えていた。
 雛見沢にこんな道あっただろうかと思わす。それとも私が普段行かない道だからだろうか。
 空き缶。
 古時計。
 信号。
 Y字路地の上り階段。
 十字路。
 私の胸は動悸していた。
 冒険、と言う言葉に当て嵌まるんじゃないかと思う。
 そうして闊歩しながら道から道へと紡いでいる刹那。
 金属音から綴られている音色が耳に響いた。
 覗くとそれは木箱から鳴っていた。
 それは不思議な音だった。
 
 私は気になり、足を止める。
 そこは寒村の雛見沢にはにつかしくない洋式の家。でも前原屋敷のようにどんと構えているものではなく雑木林の中に隠れて、まるで隠れ家のようなもと言ったほうが適当だろう。
 私達の住んでいる雛見沢と隔離しているような家だった。
 見ると何かを制作している作業台が見えた。
 それは見たことがないものばかり。
 なんだろうと覗く、と。
 こんにちわ。
 声の方向に振り向く。そこにはさっきまでいなかった女の人が立っていた。
 白い薄手のコートに白い帽子。
 容姿は20代後半の小柄でお下げ、栗色の髪、沙都子と同じように八重歯が特徴的。
 だけど彼女はこれまで会ったどの大人よりも違う印象だった。
 そして初対面。
 でもとても落ち着きのある素敵な女性。
 私はこんにちはと挨拶を返すと。
「こんにちは、百年の魔女さん」
 ……え?
 私は一瞬固まった。
「それって」
「あら、言葉通りの意味よ」
 くしゃとした笑顔を浮かべながら答えた。
 おかしい。どうして私のことを古手家当主、そしてオヤシロ様の生まれ変わりではなく魔女として、知っているのだろう。
 しかも百年の魔女、と。
 そんな私の心情を感じ取ったのか彼女は優しく諭す。
「大丈夫よ。私も魔女だから。でも、貴女や黄金の魔女のような魔女じゃないけどね」
「みー。それって?」
「……うふふふ」
 彼女は笑っていた。
 そして自己紹介。私は古手梨花と名乗ると彼女は迦遼アヤカと名乗った。
 あれ? 以前どこかであったような気がする。その時は今のように落ち着いた風じゃなくてもっと、こう天真爛漫な感じ。
 するとアヤカは柔和な笑みを浮かべた。
「うふふふ。よく覚えてるわね。でも、それは私であって今の私でないものよ。まぁ鏡越しのようなもの、といえばいいのかな」




 迦遼アヤカは私に言った。
 ねえ貴女は器用な方?
 突然のことで理解できなかったがうんと頷くと突如私の手を掴んで彼女の住んでいる家に迎え入れられた。
 中に入ると長く伸びた蔦が壁の塀などに絡んでいたのが印象的だった。
 そして彼女は私が丁度覗いていたところにあった作業台のところに連れられた。
「梨花ちゃんはこの音色に惑わされたのね。それとも呼ばれたのか」
 そういいながら彼女は手に持った。
 四角形にその中に蓄音機のような小さい機械が入っていていた。
 アヤカ曰くこれはオルゴールと言う。自動演奏オルガンのやつ、だとか。
 なにもかもが初めて。
 今まで音になんて、興味がなかった。
 否、興味を持とうだなんて思わなかった。だって私は……否、私達はそれどころじゃなかったのだから。
 生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだから。
 でも、素敵……。
 そんな私の眼差しにアヤカはくすっと笑みを浮かべ、そして「梨花ちゃんも作ってみない?」と持ちかけてきた。
 突然のことで私は吃驚し、アヤカの方向を振り向く。
 まだ結論をだしてもいないのにアヤカはじゃあ梨花ちゃんはゼンマイタイプのシリンダーだね、といいながらそそくさを用意を始めた。
 なんでこうなちゃうのかな……。
 
 梨花ちゃんは何かオルゴールにしたい曲はない?
 アヤカがそう訊いてきた。私は音に鈍いので(部活の時なんかは下準備で聞いたりするけど)オルゴールにしたい曲なんて特になかった。
 でも……私が小さい頃、いや今も小さいけど。
 今みたいにループする前にあの人、この時はまだお母さんが私をあやすときに歌っていた曲。
 ふとそれを思い出した。
 どんな感じだったのか今では朧気しか覚えていないえど、それはとても心地がよかった。
 でも作業はとても困難で曲を思い出しながら楽譜を書くという、ことは初めてのことだからどうもうまくいかない。
 失敗。
 失敗。
 失敗。
 失敗。
 失敗。
 失敗。
 失敗。
 ………………。
 …………。
 ……。
 アヤカはくすくすと笑っていた。

「みー。ボク、昔から二つのことをいっぺんにするの、苦手なのです……」
「そんなことないって。梨花ちゃん、初めてにしてはいい線いっていると思うな」
 私は作業をやめて外に出てアヤカに雛見沢を案内していた。
 雛見沢分校。
 商店街。
「あ、ちょっと」と言ってアヤカはいかめしを買い食い。
 古手神社も案内しようと思ったけど、あまり紹介しても意味がないのでスルー。
「いいの? 確か梨花ちゃんのお家なんじゃ」
「いいのですよ。それよりも神社より案内したい場所があるのです」
 そうして連れてきた場所は神社裏手から雛見沢を一望できる高台。
 空は茜色の夕日が落ちかけて、その逆光はとても眩しかった。
 綺麗、とアヤカが言った。
 素直に褒められて私もどこか嬉しくなった。
 新緑が目立つ森はいつしか紅葉へと変化。
 雛見沢はすっかり秋に染まっている。
「なんだか今日は得しちゃったな。お返ししなくっちゃ」
 そうしてアヤカはポケットの中からちいさな、本当にちいさな手のひらサイズのオルゴールを私に渡してきた。
 それはアヤカの家で聞いたオルゴールの音色よりも、ううん。それに比較することさえ禍々しいぐらい素敵だった。




 今日はレナと魅音と一緒に帰っていた。
 へぇ~不思議な人ね、と魅音が言った。
 私はそれじゃあと振り向く。
 場所は奇しくも前と同じ帰り道、Y字路地の標識の前。
 だが魅音は申し訳なさそうな顔で「ごめん梨花ちゃん、これから勉強しなきゃ!」と顔を赤らめていた。
 それだけ言うと魅音はそそくさと去ってしまった。
「あはは。魅ぃちゃん、圭ちゃんが家庭教師になってから勉強しているよね」
「みー。(・3・)となんとかなのですよ。にぱー☆」
「んー。でも不思議な魔女さんか。レナも会ってみたいな、みたいな」
「なら」
 私は瞳を輝かせながら訊いたがレナは首を左右に振った。
 なんでも父親が今日仕事の都合で鹿骨市にいるのでこれから迎えにいく、とのこと。
 レナは笑顔でまた明日といいながら去っていく。
 私はそれを見ながら見送った。
 Y字路地に残されたのは私一人。
 刹那、ポケットの中からオルゴールが奏で始めた。多分蓋が何かの弾みで取れたのだろう
 それはとても心地の良いメロディ。
 心が澄んでいくような感じ。
 私はY字路地を見ながら普段いかない道を見定めて、足を動かす。
 ふと少し顔を上げる。
 風が吹き、落ち葉が舞い上がる。
 もう秋なんだと、あらためて思う。
 普段と違う色を見せる雛見沢。私は夏の雛見沢しか強烈な印象がなかった。
 だって、私は……。
 顔を戻して私は魔女、迦遼アヤカの元へ急いだ。

 
 迦遼アヤカの家の前に着く。昔ながら西洋風の家に木で覆い隠した家。
 その時郵便ポストから落ちただろう手紙が私の目の前にあった。
 とても素敵な町並みが広がっていた絵はがき。どこの街の風景だろう。
 叙情的で陸路はみあたらない。
 私はその街の風景に一瞬で引き込まれてしまった。
 ああ、素敵……。
 それを持ってアヤカの家の奥に行くと彼女は例の作業台でオルゴールの制作作業をしていた。カンナで木を削りながら正方形に整えてい

く。しゅっ、しゅっととても綺麗に研がれる音。それはアヤカの手か研がれる木から音色が出ているといっても過言ではない。
 一段落ついたところでアヤカは私に気づき、笑みを浮かべた。
 梨花ちゃん、こんにちは。
 彼女はとても屈託のない声でそういいながら続ける。
「えっと、あともう少しで終わるから居間で待っていて」
 私ははいなのですよ、と頷き素直に居間に移動する。
 間取りは十畳ほどの一人暮らしをするには十分な居間。そこに色々あるがふと鏡に目が止まる。
 木の匂いと、あとはアヤカの匂いだろうか。とても新鮮な雰囲気。
 高さ五メートルぐらいの螺旋上の上に葉っぱが一緒に彫刻で削られいるような鏡。そして鏡の中には色々な写真があった。
 初めて見る場所。初めて見る風景。
 雛見沢しかしらない私にはどれもが新鮮。
「どう、すごいでしょ」
 鏡で私の後ろの方からアヤカが映った。
 これは?
 私はそう訊いた。
 アヤカは私に近づいて身体をくっつける。
 そしてこっちはヴェロキア王国、こっちはAQUA、あとこっちは六軒島という場所だったかしらと淡々と説明。
「みー。アヤカはいろんなところに行くのですね」
「というより転々としている感じね」
「? それはどういうことなのですか?」
「ん~そうだね。一言でいうのなら魔女に会いに行った、てことかしら」
「魔女?」
「そ、魔女」
「魔女をやめた魔女なのに、ですか?」
「ええ。魔女をやめた魔女だから、よ」
「じゃあ……アヤカがここにきたのも」
「梨花ちゃんに会いきただけ、じゃおかしいかな?」
 アヤカは溌剌にそう言った。

 茜色の夕映え。
 空を仰ぐとゴーンと轟音と共に一直線に伸びる飛行機雲。
 それから私はアヤカと一緒に中庭に出て写真をとった。
 言葉のキャッチボールをしながら。
 アヤカは魔女から魔女へと渡り歩いていく。彼女は物語で言えば一般人にもみたない脇役であり、表舞台に決して登場することはない。
 そして物語に干渉する気も更々ない。
 魔女をやめたから。
 そして一つの世界に長く留まれないと言った。
「みー。どうしてなのですか。一つの世界に留まれないって」
「それはね、梨花ちゃん。私は一つの世界に留まると不都合が生じるからよ」
「不都合?」
「そっ。不都合。簡単に言うと、そーね。貴女が惨劇を乗り越えることができないような」
「わ、私は……」
「違ったかしら?」
 アヤカは笑っていた。
 私は何も言い返すことができなかった。

 写真を撮り終えると私達は再びオルゴール作りを始めた。といっても私はとにかくあの時聴いた曲を思い出す作業で試行錯誤し、思い出すことは困難だった。
 どうしてその曲に拘るのだろう、と自分でも思う。
 でもオルゴールにしたい曲はそれでないとだめだと決めていた。
 ……昔お母さんが私のために歌っていた賛美歌のような、それでいていい加減のような歌。
 だからこそ。
 この曲を思い出さなきゃと思う。
 でもそんな想いとは裏腹に、どうしても上手くいくことができなかった。
 

 それから私は誰もいない家に帰宅した。
 帰っても誰もいないというのは本当に寂しい。
 以前は家にかえれば沙都子が「こんな時間までなにをしているのですこと」と心配してくれた。
 そうでなくても羽入が私の横にいてくれた。
 それがどれほど私を癒してくれたのだろう。 
 いなくなって、初めて気づいた。
 私は一人きりはいや。
 そしてとても弱い人間だということを。
 
 私は倉庫小屋から古手家本家に移動を始めた。
 今日は倉庫小屋にいたくない気分だった。
 だから家に行く。
 私以外誰もいなくなった家。
 とても広く思えてしまう家。
 その時、居間からシーツで覆われたグランドアノが私の目に映った。
 昔お母さんが弾いていた、ものだと思う。
 あの時の音色はとても素敵で、朧気だけどとても心地のよかったのは覚えている。
 私はピアノに近づきシーツと蓋を開けてる。真っ白と黒の鍵盤。
 ピアノは昔、ループをする前の頃の私はお母さんから習っていたことがあるが、それきり。
 私はお母さんを必要しなくなった。
 だってあの人は殺されるのだから。
 人差し指でポンと白い鍵盤を鳴らす。

 刹那。
 お母さんが歌っていた曲が一気に……あふれ出す。
 昔の私とともに、昔のお母さんと共に。
 それは落ち葉の舞い落ちるスピードのように。
 だけど……それは。
 こおろぎが鳴く。私は一人悩む。
 だって思い出しちゃったの。
 かつての曲とかつてのお母さんの暖かさ。
 それをオルゴールにする……。
 私は……。

 羽入……。
 私、どうしたらいいの……。




 ……『そうだそうだ』その時私は袂の中の檸檬を憶い出した。
 翌日、教室にて。
 知恵は梶井基次郎の「檸檬」の一節を朗読していた。
 私はそれを聞きながら空を仰ぐ。
 秋らしい紅葉が見合う落ち着いた空。
 
 放課後。みんな忙しく、部活をしている暇がない。
 いつまでも一緒にいられると思っていた。
 いつまでも一緒だと信じていた。
 でも、それは変わるモノ。

 私はY字路地の標識から右に曲がり、アヤカの家に急ぐ。
 アヤカはいつものように家にいて、私が来るのを待っていた。
 早速昨日思い出した曲をアヤカに言う。
 で、梨花ちゃんはその曲をオルゴールにするの?
 訥々とした口調でアヤカは私に尋ねる。
 一瞬躊躇したが、私はうんと頷いた。
 
 楽譜に思い出した曲を紡ぐ。
 アヤカのアドバイスがあってか思い出した曲は形となった。
 かつてお母さんが歌っていた曲をオルゴールに。

 そしてオルゴールは完成した。
 四角形の箱の中に蓋を開けると音色が鳴るオルゴール。
 私の気分は少し高揚していた。
 ねえ。アヤカ。
 そう言いながら私はオルゴールからアヤカに顔を向ける。
 刹那。
 ガタンとモノが倒れてくる音が聞こた。
 私の横にさっきまでいたアヤカの姿がいない。否、それだけじゃなくそれまでアヤカが住んでいた家具などが一瞬にして消え去ってしまった。
「みー! アヤカっ! どこにいるのですか。返事してほしいなのですー!」
 私は大声を出しながら家中を歩き回って探すが……彼女が愛用していた部屋はすべてがなくなって、はじめから誰もいなかったみたいな静寂さが辺りを包み込んだ。
 私はともとぼと部屋に戻ると出来たオルゴールの横に写真が一枚。
 それは私とアヤカが前に一緒に撮影した写真でその裏には彼女のまるっこい字でこうかかれてあった。
『それじゃあね。魔女をやめた可愛い魔女さん』



 
 帰り道、私は一人。
 ふと古手神社の展望台に寄り道。
 茜色の夕焼けがゆっくりと沈んでいく。私は一緒に貰ったオルゴールを開き、曲を聴いている。
 風が吹き、髪が靡く。
 かつてお母さんが歌っている曲が流れる。
 ふと。
 本当にふと。
 私はくすっと笑った。
 なんだか、癪だけどやっぱりとても心地がいい。
 それに私は一人じゃない、って思う。
 悔しい。
 でもどこか清々しい。
 そんな風に思わずにはいられなかった。

 落ち葉は舞い上がり、風に乗る。
 私もまだまだこれから。
 魔女をやめた魔女。
 あながち間違ってない隠喩。
 そうして私は一人、否お母さんの曲と一緒にもう少しその場にいることにした。
 せめて夕日が落ちる間まで。


                                                        終わり

2007/10/02 22:40 | SSCOMMENT(1)TRACKBACK(0)  

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No:58 2007/10/02 22:47 | # [ 編集 ]

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