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『Movment――≪Dream Island Obsessionnal Park≫』

 削除と願望と理不尽なる国立公園。
 空と海が犇めく路地裏の最中、三つの世界が韜晦した。
 それは片方に理想≪Rotarion≫
 それは片方に思想≪Dream Island Obsessional Park≫
 それは両方に感想≪The girl in Byakkoya≫
 世界が否定するELYSION[ABYSS]の最中、三つの物語が胎動する。


 くすくすくすくすくすくすくす。
 こんばんはお久しぶり初めましての皆々様。
 前回の物語を読了した方もいるかしら? それとも初めましての方が多いのかしら?
 それとも前回読み飛ばしたけどまた目があったのかしら?
 私ったらまた野暮なことを訊いたようね。
 え? 私は誰かって?
 それは前回も述べたはずよ。……ああ、初めましての方には説明不十分だったようね。

 私はフレデリカ。
 ベルンカステルでもなければ古手梨花でもない。
 私は私よ。

 さて、手元には三つの物語。
 それは信号待ちをしている川沿いのオフィスで昼寝をしている午後のように。
 それは少女が翼を廻る静かなホームページの翌朝のように。
 それは金色と銀色の木漏れ日のベンチが囀るアテレコに似たブラックミュージックのように。
 
 一つはすでに誕生日を終えた北条沙都子の記念作品『ロタティオン』
 一つは七夕と誕生日と同日である竜宮礼奈の記念作品『夢の島思念公園』
 一つは盛大な誕生日を迎える公由夏美の記念作品『白虎野の娘』

 これはカケラ。
 本編と同様息吹と吐息が絡め合い地平線と地平線が織り出す物語。

 読むのか読まないのかはあなたの自由。
 途中でやめるのか全部読むのかはあなたの自由。
 一つの物語だけを読むのか三つの物語を読むのかはあなたの自由。
 感想をかくのか感想をかかないのかはあなたの自由。
 私は其れを否定しない。肯定もしない。強制も命令も何もしない。
 だってこの物語は彼方という此処の世界。
 
 ――世界は此処を中心にして廻っているのだから。

 それでは『Movment』の世界へ、ようこそ―――。











 この縮こまった世界にいて何が悪いの。
 竜宮礼奈はそう思わずにはいられなかった。
 あら、どうしたの?
 礼奈の横にいる女性はあっけらかんとした口調で訊いた。
 なんでもないです。
 礼奈は不躾な態度で言い返すと女性はくすくすと笑った。
 礼奈はそれが不快だった。
 なんでこの人と一緒にいるのだろう。
 なんでこの人と会話をしているのだろう。
 なんでこの人とこの場所にいるのだろう。
 折しも七夕。
 礼奈は女性に気づかないように小さくはぁと溜息を吐いた。
 そして目配せ。
 女性は笑っていた。
 

 礼奈とクラスメイトの前原圭一は現在付き合っている。
 七月の初め、礼奈が意を決して圭一に告白をした。
 ただ礼奈はクラスメイトの園崎魅音が圭一のことを恋慕していることを知っており、相談を持ちかけたこともあった。
 礼奈は自分を気持ちを押し殺して魅音と圭一が幸せになればいいと思っていた。
 しかし、ある日礼奈は夢を見た。
 それは誰にも相談せずに学校を籠城した夢。人殺しをした夢。
 それはとてもリアルで、とても悲しくて。
 そして礼奈は……そのリアルの夢で知る。
 相談すること。みんなに相談すること。
 例え伝わらなくても、挫折しても口に出して言うこと。
 それがリアルな夢から学んだ哲学。
 礼奈はその夢を夢として片付けず、始めに魅音に告白し、次いで圭一に告白した。
 圭一の時はもちろん、魅音に自分の気持ちを伝えることは容易ではなかった。
 ずっと相談されていた彼を奪う行為。
 それは或る意味では裏切り。
 だけど。
 礼奈はその気持ちを抑えることができなかった。
 わたしは、圭一くんのことが好きという思いを魅ぃちゃんに知ってもらいたい。
 わたしの本当の気持ちを魅ぃちゃんに伝えたい。
 緊張しながらも勇気を振り絞って魅音に告白すると、魅音は一瞬目を見開いた後、ふっと笑みを零して、そして――礼奈の頭を撫でた。
 レナ、やっと言ってくれたよ。
 魅音は礼奈の気持ちに気づいていた。いつしか礼奈が圭一のことを恋慕していることに。
 だけど既に何度も礼奈に相談した身。ゆえに自分から言い出すことが出来なかった。
 言い出すことで何かを失うことが怖かった。
 魅音は淡々と、そして優しい口調で綴っていた。
 それは普段雛見沢分校での学級員で、部活の部長、空気を読まない園崎魅音を脱していた。
 これがわたしの知っている魅ぃちゃんなの?
 礼奈は純粋にそう思った。
 魅音はそのことを訊くとぶー頬を膨らませながら。
 おじさんだって女の子だもん。
 拗ねていた。
 そして魅音はがんばりなよ、と付け加えた。
 それが功を奏してか礼奈は圭一に後日告白すると俺でよかったら、と照れながら恋人同士になった。
 だがその日告白するまで礼奈は気が気でなく寝不足の日が続いていた。
 魅音は大丈夫だって、とフォローをしていたがやはり不安で仕方がなかった。
 いい話があるのですと横から割ってきたのはクラスメイトの古手梨花は告白を受けるのなら古手神社に醤油を百本無料奉納すれば願いは叶うと言っていたが、後日キムチに変更された。
『シューなんて絶対奉納させないんだからね!』
『あぅあぅあぅあぅ!! 梨花は酷いのですよ!! そんなに僕が嫌いなのですか! この神様の僕が嫌いなのですか!!』
『シューを好む神様だなんて前代未聞よ。いえ、ヘタレ神という時点で前代開門よ!! さあ醤油よ!! 醤油をへるぷ。みーなのです!!』
『あぅあぅあぅあぅ!! 前代開門ってどんな造語なのですか!! という結局私利私欲のために動くだなんて酷いのです!! そんなことだから僕の方が人気あるのですよ!!』
『五月蠅いわね!! 羽入如きの人気、私のリリカルマジカル最強魔法でぶっつぶしてやるわ!! key系で言うのなら鯛焼きを万引きするぐらいのやつなら、その鯛焼き金色のヘタレおにいちゃんのしょうもない手で潰してやるわ!! それと国崎サイコーにやってやるー!!』
『あぅあぅあぅあぅ!! なんなのですか!! その露骨なkeyネタは!! そんなことを言うのやめてほしーのですよ!! あと声優ネタはもうやめてくれなのですよ!!!』
 礼奈は途中からヒートアップして誰かと掛け合いをしている梨花から離れて、醤油諸々を奉納することをやめた。
 そんなことをしなくても圭一と付き合うことが出来たので自力で努力することに心がけた。
 世の中、神頼みよりも自分を信じることだね、だね!

 それから数日後の七月七日。
 礼奈は興宮にある県立図書館玄関前で佇んでいた。
 圭一との初デートで、礼奈は待ち合わせの一時間前からそこにいた。
 黄色の麦わら帽子に白いフリルのワンピース、向日葵柄のポシェット。
 ナチュラルメイクをしてうすらベージュの口紅をしていた。
 それは礼奈が目一杯お洒落をした姿だった。
 魅音に(正確には魅音に相談したときにたまたま居合わせた妹・園崎詩音に)相談した時に圭ちゃんと初めてのデートなんだからへんに派手な衣装をするよりもレナさんらしい衣装をチョイスすればいいです、と言われ礼奈は無理に背伸びせず等身大の衣装でデートを楽しもうと考えていた。
 それにしても圭一くん、まだかなぁ……だんなて一時間も前に来ているんだからまだに決まっているよね、えへ。
 礼奈の気持ちは高揚していた。
 今日は七夕。
 織姫と彦星が一年に一度だけ会うことが許されたその日。
 はぅ~とてもロマンチックだよぅ~。
 だけど圭一くんと一年に一度だけなんていやだなぁ~レナは圭一くんに毎日あっても会い足りないんだから!
 礼奈はいつのまにか頬を赤らめて笑みを零していた。
 刹那後ろから声が聞こえた。
 顔が緩んでいるわよ。
 それは礼奈にとってそれはとても聞き覚えのある声だった。
 かつて好きだった人の声。
 かつて愛していた人の声。
 振り返るとそこには礼奈にとって見慣れた女性が立っていた。

 それは他でもない礼奈の母だった。




 わたしはお母さんが大嫌い。
 だってわたしを、お父さんを裏切ったのだから。
 もしこの人のことを妄想するのならわたしは代理人でも呼んで殺したい。
 でもわたしとこの人は親子。
 例えお父さんとこの人が離婚したとしても、それだけは切り離すことは出来ない。
 どうしてこの人がわたしのお母さんなの。
 どうしてこの人と親子なの。
 ねえ、どうしたの。
 お母さんが訊いた。
 わたしはなんでもないと答えた。
 本当に何でもない。
 でもどうして興宮に来たのかその理由は訊きたかった。
 刹那わたしの心情を読み取ったようにお母さんは仕事の都合で興宮に寄ったの、と突然切り出した後ふんと鼻で笑った。
 礼奈ちゃんの考えていることは全てお見通しよ。
 その言葉を聞いた途端怒りがこみ上げてきた。
 神経が逆なでされた。
 しかしお母さんはわたしの表情を見て、くすくすと笑った。
 ねえ、久しぶりにあそこに行ってない?
 お母さんは言った。
 あそこって……?
 お母さんはつかつかと歩き始めた。
 予測できない行動に呆然しているととどうしたの? いかないの? と声をかけてきた。
 でも、わたし、圭一くんのこと待っているし。
 そのことを口にした途端、あ、と思ったけど時既に遅しだった。
 お母さんはにんまりした表情で圭一くんってだぁれぇ~? と訊いてきた。
 そんなこと訊かないでよ!
 お母さんには関係ないじゃない! 
 でもお母さんの質問攻めに黙秘することは……できなかった。
 昔からそう。お母さんの質問攻めに最終的には耐えきれず、わたしが根負けして答える。
 昔はそれこそあどけない一コマかもしれないけど、今となってはかなりの汚点だ。
 嫌々ながらもわたしは圭一くんのことを訥々と答える。
 感情のない棒読みした口調でそれは教科書に書かれている文字を読んでいる時のような感覚。
 ううん。教科書のほうがまだいい。教科書に感情はないから。
 書かれている文字の羅列を知恵先生にそこまでと言われるまで読めばいいだけの話だから。
 でもお母さんは違う。
 お母さんはわたしと圭一くんの経緯を事細かに訊いてくる。それだけで億劫。
 どうしてこの人に説明しなきゃいけないのだろう。
 ともかくわたし、行かないからね!
 わたしがそういうとお母さんはくすっと嘲笑した。
 でも礼奈ちゃん。一時間前に来て待っているって言ったじゃない。
 …………わたしの馬鹿。
 どうして一つも、嘘をつけないの。どうして黙ってられないの。
 この女はお父さんを捨てたのに、どうしてわたしはこの人に刃向かうことができないの。
 それにわたしはこの人にお母さんだなんて呼びたくない。
 わたしはこの人に礼奈ちゃんだなんて呼ばれたくない!
 わたしは竜宮レナだ!
 わたしは礼奈を捨てたんだ!
 お母さんが知っている竜宮礼奈は茨城にいるときに全部捨てたんだ!
 だからこの人と、もう関係ないのに!
 なのに! なのに! なのに!
 そうこうしているうちにわたし達はあるところに来た。
 それはわたしとお父さんと、お母さんと三人でよく来ていた公園。
 そこは何も変わってなかった。
 草木があの時より伸びていたがそれでも公園の形、独特の匂い、独特の雰囲気…違う、わたしは、あの時の公園を思い出しているのだ。
 かつて茨城に引っ越しする前にお父さんとお母さんが仲良くピクニックがてら来ていた。日曜日に決まって、毎朝お母さんお手製の少し形が歪なサンドイッチを一緒につくって、公園に着くまで三人で手を繋いでいた。右にはお父さん、左にはお母さん。
 それはとても晴れやかな日曜日。
 あの時見た飛行機雲。
 今でもよく覚えている。
 でも今はあの時じゃない。
 今は昔じゃない。
 この人とまた一緒に暮らすだなんて考えられない。
 この人のことをまたお母さんと呼ぶだなんて考えられない。
 でも戸籍上ではこの人とわたしは親子。
 どうして…どうして。
 その時お母さんが訊いてきた。
 礼奈ちゃん、その圭一くんといて幸せ?
 それは唐突に、突然に。
 わたしは質問の意図が判らなかったけどお母さんは二度、三度と同じ質問を訊いてきた。
 わたしは幸せだよ、と答えた。
 圭一くんといて幸せ。
 だって大好きな圭一くんとずっと一緒にいられるんだもん。
 するとお母さんは目を細めて、そして言い切った。
 礼奈ちゃんは、私と同じふうになるわ。
 ……どうして? 
 素直にそう思った。どうしてわたしはお母さんと同じになるのだろう。
 するとお母さんは続けた。
 今が幸せってことはこれからは不幸せなの。礼奈ちゃんはまだ付き合ったばっかりだからわからないと思うけど礼奈ちゃんはこれから圭一くんが一途とも限らないし、礼奈ちゃんだって圭一くん意外に好きな男の子ができるかもしれない。それこそ私みたいにね。
 その言葉で何かが壊れた。
 わたしは嘘だ! と声を荒げた。
 呪詛を込めた表情で、殺意を込めた表情でお母さんのことを睨み付けた。
 お母さんのことを嫌いだった。
 でも今度という今度は許せない!
 お父さんやわたしならまだしも圭一くんのことを愚弄するだなんて!
 圭一くんのこと馬鹿にして!
 もし手元に斧や鉈があればそれでお母さんのことを切り刻んでいたと思う。
 でもわたしは目一杯おめかしをした衣装。
 これから圭一くんとデートというのに、自らの手を汚すだなんて、そんなこと、絶対に嫌!
 だからわたしは睨み付けるだけで精一杯だった。
 そして口からは嘘だ! を連呼して絶叫するだけだった。
 お母さんはわたしのことを驚くも怯えるもせず、ただつまらない表情でわたしの行動を観察していた。
 それがまた腹が立ち、わたしはお母さんに何度も絶叫を喚いた。
 畜生! なんでわたしはこの人に何もできないの! わたしはこの人と親子の縁を切りたいの!
 仲直りなんて絶対無理! 和解だなんて死んでも嫌!
 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!!!
 …………はぁはぁはぁ。
 わたしは肩で息をしていた。喉もカラカラ。
 こんなに怒鳴ったのも久しぶりかもしれない。
 お母さんがふと呟いた。
 私も礼奈ちゃんのお父さんとずっと一緒にいられるはずだった。ずっとここが私の居場所だと思っていた。でも心のどこかでは疑っていたの。あの人、じゃない。私自身を。仕事もそうだけど、私は自分が認める場所が欲しかったの。だからあの人と齟齬が生まれたの。それは必然。礼奈ちゃんも大人になれば判るわ。
 判りたくない! 
 知りたくもない!
 そんなこと、わたしには関係ない! どうしてそんな話をわたしにするの! わたしはお母さんのこと大嫌いなのに!
 するとお母さんは、ハッキリと笑みを浮かべながら言った。
 奇遇。私も礼奈ちゃんのこと、心の底から大嫌いなの。
 でもね、同じくらい大好きなのよ。



 妄想する代理人。
 わたしの理性が正常なのならこの人が今言っていることは……矛盾だらけ。
 どうしてわたしのことを大嫌いだと、そして大好きだと言ったの。
 お母さんは訥々と続けた。
 確かに私はあなたのお母さん失格よ。あの人を捨ててアキヒトさんを取ったのだから。でもね、覚えてちょうだい。私、あなたのこと、同じぐらいに、ううん、あの人以上に嫌いなの。どうしてって? だって私の娘なんですもの。親子の縁が切れるのなら今すぐにでも切りたいわ。でもね、私と礼奈ちゃんは親子なの。これはどう抗うこともできないわ。だから嫌悪し、同時に愛しているの。
 偽善だ。
 わたしはお母さんの話を聞いて素直にそう思った。
 何が嫌悪しているのに、愛してる? だったらどうしてお父さんのことを、わたしのことを捨てたの!?
 どうしてわたしのことを捨てたの!?
 なんで、なんで!
 答えはでない。
 答えなんて、でるはずがない。
 わたしは、この人のことを本当はどう思っているのだろう。
 好き?
 嫌い?
 少し前までは、少なくともこの人に会う前までは大嫌いだった……でも今は、判らない。
 好きとか嫌いとかじゃない。
 和解とかじゃない。
 でも言葉に出来ない。
 そんな関係。
 その時、そろそろ戻りましょうと言ってきた。
 時計を見ると待ち合わせの約束した時間帯間近だった。
 わたしはぐうの音もでずこの人の後を着いていこうとする。
 でも、とわたしは立ち止まる。
 お母さんはどうしたの振り向いた。
 わたしは一瞬躊躇した後、お母さんの顔を凝視して、怒鳴った。
 わたしはお母さんじゃない! だからお母さんと同じ人生だなんて送らない! お母さんみたいにお父さんを、わたしは圭一くんのことを見捨てたりしない! わたしは圭一くんといつまでも幸せになる! お母さんが羨むくらい素敵な家族を築いてみせるんだから! 
 お母さんはぽかんと呆然とした後、にかっと笑みを浮かべた。
 そして、嬉しそうな声で喋った。
 礼奈ちゃんのその言葉を待っていたのよ。やれるもんならやってみない。
 …………………。
 今度はわたしの方が呆けてしまった。
 それからお母さんは綺麗な紙で梱包された小さな箱をわたしに渡して、お誕生日おめでとうと祝福された。
 解くと綺麗なブローチが入ってあった。
 それはとても穏やかな昼下がりの午後だった。



 礼奈達が図書館に戻ると圭一が遅いぞーと言いながら待っていた。
 圭一くん、ごめんねと礼奈が謝ると、圭一は礼奈の顔を凝視して、それからしばらくして顔を紅潮しながら謝ればいいんだよ、と口籠もりなら照れていた。
 レナ、可愛いなと圭一は呟いた。
 礼奈はその言葉を聞いて心の底から嬉しくなった。
 はぅ~。レナ、圭一くんに可愛いって言われたんだよ、だよ!
 すると圭一は礼奈の母の存在に気づく。
 軽く会釈すると、可愛い彼氏ね、と微笑んだ。
 それを聞いて礼奈は翳る表情をする。
 そんな礼奈の気持ちを無視するように母は圭一に話しかける。
 まったく、礼奈ちゃんを落とすなんてこの幸せ者。礼奈ちゃんは私に似てかぁいい娘だから圭一くんみたいな男の子と付き合って正解ね~。
 圭一は何も答えることが出来なかった。
 その時母は腕時計を見て、それじゃあ、ここまでねと呟いた。
 それじゃあ礼奈ちゃん、私、そろそろ帰るからね。じゃあね。
 礼奈はじゃあと言おうとした言葉を呑み込み、さよならと抑揚のない声で言った。
 だが母はにたりと笑う。
 親子なんだからさよなら、なんて言葉は似合わないわよ。本当のさよならはどちらかが死ぬ時だけどそれでも私は礼奈ちゃんの葬儀に出て、大勢の前で泣いてやるんだから。ね? さよならなんて言葉、永遠に使うことは無理なのよ。特に親子の場合はね。 
 そう言い残すと礼奈達を残して姿を消していく。
 そして礼奈の視界に母の姿は消えていった。
 なあ、レナ。
 圭一は訊いた。
 あの人ってレナのお母さんだよな。
 礼奈はこくんと頷き、そうだよと答える。
 ねえ、圭一くん。もしもの話だよ。
 もしも、わたしと圭一くんが別れるとしたら……どうする?
 圭一は礼奈の唐突な質問にしどろもどろになり、もしもってなんだよ~と茶化したように言う。
 だが礼奈の眼差しは真剣で、圭一はこほんと咳払いをした後言う。
 もしも、だな。もしも、俺がレナと別れたとする。それはとてもとても辛いことだと思う。何があって別れるのか判らない。まあそんな状況訪れないんだけどな、と話がそれちまったな。俺がもしレナと別れると……それは大失恋だと思う。ショックでしばらく恋なんて、いや、一生恋なんてできないかもしれない。でも俺はレナとの恋愛を……無駄にしたくない。レナと一緒にいる時間、いや、この時は一緒にいた時間だな。その時間を俺は忘れない。そして、ゆっくりだけど踏み出して行かなきゃいけないと思う。それはとても辛いことだと思う。後ろ指を指されることだと思う。一生レナを想いながら一人で生きていく……口で言うことは簡単だ。でも……あーもうやめやめ! もしもの話なんでしたくねーんだよ! 俺は目の前にいる、今生きている竜宮レナと一緒にいたいんだ! それがどんな結果であっても構わない! でも俺はレナと一緒にいる時間を後悔したくない! だから俺はレナと一緒にいたい! 一緒に今を楽しみたい! それじゃあ不服か!?
 途端。
 ぽつりと礼奈の瞳から涙がこぼれ落ちた。
 その雫は頬を伝い、地面に落ちる。
 圭一は狼狽しながら俺何か悪いことでも言ったか? と訊いてきたが礼奈は首を左右に振った。
 違うの。
 わたしは、嬉しいの。
 圭一くんにこんなに想われて嬉しいの。
 もしもの話なんて、だめだよね。今を精一杯楽しまなきゃだめだよね。
 今はお母さんの気持ち、ぜんぜん判らない。むしろお父さんのこと、わたしのことを含めてやっぱり許せない。
 でもね。
 わたしはお母さんの娘なんだもの。
 お母さんから生を授かったんだもの。
 お母さんも言っていた。
 わたしを産んで良かったと。
 わたしを育てて良かったと。
 わたしと親子でいて良かったと。
 うん。
 わたしもそのことには同感。
 お母さんと一緒にいた時間。とても幸せだった。
 お母さんとの思い出はとても、とても辛く、茨城での思い出が辛辣でこれ以上ないほど許せなくても、幸せな時間だった。
 でも、だからこそ。
 わたしはお母さんじゃない。
 お母さんと同じ生き方なんてまっぴらごめん。
 わたしはわたしの生き方をするの。
 圭一くんといつまでも、辛くても一緒にいること。
 それはとても容易ではないかもしれない。でもわたしは、圭一くんと一緒にいたい。
 一緒にいつまでも笑い合いたい。
 そして、過去を後悔しないように――妄想をしないように。
 妄想代理人だなんて必要ない。
 わたしが生きる意味。
 それは――。

 礼奈は圭一の手を握った。
 圭一は顔を赤らめながら礼奈の顔を凝視する。
 礼奈はデート、始めよと言う。
 圭一は上ずった声でああと良いながら練りに練っただろうデートプランを礼奈に伝える。
 圭一の口調は辿々しくも、でもとても初々しい。
 そう思いながら礼奈はあははと笑った。
 それじゃあ早速行きたいな。はぅ~。
 圭一は任せておけと男らしい口調。
 刹那、空を眺めると一直線に伸びる飛行機雲。
 礼奈は思い出す。
 あの時はお父さんとお母さんの手を繋いでいた。
 でも今は圭一くんの手を繋いでいる。
 わたしには和解とか許すとか、まだ子供だから判らない。
 でもこれから知りたいと思う。
 圭一くんといつまでも一緒いる方法を。
 いつまでも幸せでいる方法を。
 家族として、いつまでも続いていきたいと。


 ――そうして彼女と彼は見果てぬ≪Roman≫を探す旅に出る。
 彼女はかつて彼女を育んだ女性に憎悪を、そして愛を込めて。
 彼はこれから彼女を知るために、生けとし生けるモノに愛を込めて。
 その地平線から地平線へと続く旅路の果て、彼女と彼は≪Roman≫を求め続けるだろう。
 そして行き着くだろう11文字の《伝言》を『movment』するために二人は生きる。
 
 彼女が望む誕生日――それは≪Roman≫



 くすくすくすくす。
 いかがだったかしら。
 長かった? ご苦労さま。
 短かった? お粗末さま。
 この物語をどう受け止めるのかは彼方次第。
 さて次の物語もあるけど彼方はどうする?
 輪廻とベルトコンベアで牛耳る入道雲のように瞬く?
 編集と変換が通用するスクールゾーンのように帰路につく?
 ここでさよなら?
 それとも……?
 くすくすくすくす。
 私って本当に野暮なことを訊くの、嗜好的ね。
 そんなこと私の知る範疇じゃないのに。
 だって、決めるのは彼方なのだから。
 
 『movment』は直ぐ其処に――。

2007/09/13 22:38 | SSCOMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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