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雨のち晴れ

このSSは行為を行っているためR指定としておきます。
熱狂的な圭魅、圭レナファンの方はご覧を控えることをお勧めいたします。
以上のことを踏まえた上で自己責任でご覧くださいませ。




 風向きが変わった。
 その瞬間俺の横にいた魅音自慢のポニーテールが靡いているのが判った。
 ゆらゆら凪ぐ魅音の髪。緩慢な仕草のそれは何度見ても飽きない。
 ねえ圭ちゃんと魅音が声を発した。
 俺は何と答えると魅音は目配せしながら淡々とした言葉でその言葉を言った。

 「愛って何だろうね」

 俺は何も答えられなかった。
 だってそんなこと知らない。
 何が愛だなんて俺は知らない。
 だって。




 二月十四日、俺は魅音からバレンタインデーのチョコを貰った。否、正確にはレナや沙都子や梨花ちゃんや羽入にもチョコを貰ったがこのときの魅音は少し違っていた。
 その日みなチョコを手作りだったが魅音のチョコだけ義理チョコだった。これには少しがっかりした。まあ義理でもチョコを貰えるだけ儲けものじゃないかといえればそれまでだが……。
 魅音は顔を赤らめながらごめんと言った後、放課後家にまで来てくれるかなと訊いてきた。
 俺はその日何の予定もなかったので魅音の家まで行くことになった。
 家に着き、俺は魅音の部屋に通された。見ると漫画やゲームのルールブック等などが本棚を締めていた。
 そこはいかにも魅音の部屋って感じだった。
 そんな風に本棚を眺めていると魅音が後ろから声を掛けてきた。俺はなんだよと気怠い口調をしながら魅音を見るとそこには白のレースの生地で出来たカーディガンと黒いフリフリのスカートを着込んでいた。顔はついさっきまで見ていた魅音ではなくうっすら化粧をしたような感じで、それまでの印象が違っていた。
 なんていうか別人みたいだった。
 なによりそう思うのはそれまで勝ち気な態度で男っぽい魅音から急にしおらしい魅音になっていた。
 顔を赤らめてそれは、とても女の子だった。
 な、なんだよこれ。
 そんな魅音を見ていると胸の鼓動がどくんどくんと高鳴った。
 
『圭ちゃん、おじさんの格好……変かな?』
『いや、変じゃない。凄く、似合っている』

 そう言うと魅音はふうと溜息をし、少し落ち着いたかのか安堵した表情を浮かべた。
 だが代わりに俺の心臓は落ち着くことはなかった。爪の先から耳の先まで一気に高揚し、赤らめているのが判った。

『そ、それで圭ちゃん……おじさんチョコを作ったんだけど……』
『な、なんだよ。魅音ちゃんとチョコを作っているじゃないか。それならなんで学校で渡さなかったんだよ。みんながっかりだぞ』

 俺はそんなことを言った。魅音はそうだね、と苦笑したが、

『……でもね。学校で渡せないよ……渡せるはずないよ。こんなチョコ』

 そうして魅音は今まで後ろに隠していた両手を前に出すとそこには魅音のチョコが持ってあった。だがその出来は見るも無惨で、正直言うのならハート型のバレンタインチョコがすでにハートではなく台形みたいな形になっていた。
 魅音の顔を見ると真っ赤。
 
『うん。確かにこのチョコじゃ、みんなの前に出せないなぁ。あ、判ったぞ。だから魅音は義理チョコなんていうせこい手を使ったんだな』
『……………………』

 魅音は何も答えなかった。
 俺はどこか言ってはいけないことを言ってしまったのか気まずい雰囲気が流れた。

『ごめん。俺なにか傷つけたことを言ったみたいで……ごめん』
『圭ちゃんは、圭ちゃんは悪くないよ……圭ちゃんの言うこと、正しいから』
『え? それって……どういう……』

 魅音は俺に聞こえないぐらいの声で何度もぶつぶつと呟いた後、言った。

『私、せこい手を使った。レナを出し抜いて、みんなを出し抜いて……圭ちゃんと二人きりに、こんなシチュエーションを作っちゃった。フェアじゃないよね、あははは』
『魅音。お前さっきから何を……』
『圭ちゃん、私のこと、どう思ってる?』
『どう思ってるって…………』

 その瞬間俺は口を噤んだ。
 それを見て魅音は声を発した。

『判っているよ。圭ちゃんは私のことを……友達として見ているんでしょ?』
『じゃ、じゃあ魅音は……魅音は俺のことを…………』
『異性として、見ているよ。ううん、この言い方は相応しくないね。圭ちゃんのことを、ずっと見ているよ。今も、ずっと、想いながら、見ている』

 それから魅音はチョコを俺に渡してすぐに部屋を後にした。
 それからしばらくして魅音はいつもの服装に戻って、すぐにいつもの勝ち気な魅音に戻った。
 チョコについては『おじさん、失敗しちゃったよ。あっひゃっひゃ』と笑っていた。
 このまま置いていってよ、と魅音は言ったが俺は持って帰って食うと言った。すると魅音は『明日学校にいけなくなってもしらないよ~』と茶化した口調だったがその表情はどこか嬉しそうな顔をしていた。
 程なくして俺は魅音の家を後にした。
 だがこの胸のどきどき感は魅音の家から離れた後も止むことはなかった。
 俺が魅音のことを異性として見始めたのだから。
 そからずっと魅音のことばかりを考えていた。
 朝起きてから夜寝るまで、否もしかしたら寝ている最中でさえもいつも魅音のことを想っていた。
 もしかしたら、これが好きっていう感情? 
 俺は……どうすれいいのか判らなかった。この気持ちはなんなんだろうと。

 だから俺は後日レナに相談した。だってそうだろ? 俺は初めてだらけだったからレナに訊く以外方法がなかったんだ。
 レナは俺の話を聞き終えて少しの間きょとんとした後、

『け、圭一くん。やっぱり鈍感なんだね。それってね、魅ぃちゃんのことが好きってことなんだよ。はぅ~両想いなんだよ、だよ』

 そう言い切った。

『そうか……両思いだった。そういうことなんだよな、レナ?』
『……………………………うん』

 レナは暫く無言をした後頷き、それから。

『じゃ、じゃあレナが圭一君と魅ぃちゃんがくっつけてあげるよ。恋のキューピットなんだよ、だよ……』
『そ、そうか?』
『うんっ! レナに任せておいてよ! でもひとつ条件があるの』
『ん。なんだ?』
『魅ぃちゃんに絶対にこのことを言っちゃだめだからね』
『な、なんで……?』
『…………なんでそんなことまで言わないといけないの? それは自分で考えるんだよ、だよ!』
『…………判った』

 それから俺と魅音は程なくして、レナの策略? によって恋人同士となった。
 レナからいろいろと教えて貰いそれを実行し、俺は魅音に告白した。魅音は『私で良ければ』と言いながら俺の告白を受け入れてくれた。
 レナにそれを言うとレナはとても喜んでくれた。
 だけどどこか寂しそうなそんな表情を浮かべていた。
 その表情を見るのが俺は凄く嫌だった。どうしてレナはそんな表情を浮かべているのか、俺はさっぱり判らなかった。


 本当、最低な鈍感野郎だと自覚している。
 でもそれも後の祭り。
 この時の俺はレナのことなんて考えてなかったのだから。
 もしかしたら魅音のことすら考えてなかったのかもしれない。
 だからこそ、ホワイトデーに。


 この飽和状態が決壊した。





 それから一ヶ月後、三月十四日。
 バレンタインを貰ったお礼に送るホワイトデー。
 その日俺は魅音のお返しに何をしようか考えていた。
 放課後、俺は魅音と帰宅していた。
 ふと見上げると転回禁止の標識が目に入った。
 その時魅音が『圭ちゃんに貰えるのならなんだっていいよ』と言ってきた。

「それは言うけどよ。俺は魅音のためになにかしたんだよな」
「いいって……圭ちゃんが私のことを想ってくるのなら、それだけで、いいよ」
「そうか? うーん、しょうがねえ。またレナにでも訊くか」

 その時魅音の体がぴんと硬直し、まるで金縛りにでもあったかのように身動きしなかった。
 
「…………ねえ、圭ちゃん。もう一度、言って」
「だからレナに……」

 そこまで言って俺は気づく。
 レナとの約束を、つい口を滑らせてしまった。
 
「そ、その、な。隠していたわけじゃないだ。ほら、俺って自分でいうのもなんだけど鈍感だろ? だからレナに相談して、いろいろと」
「いろいろ!? じゃあ、なに!? 圭ちゃんと私が付き合っているのも、もしかしてレナが」
「あ、ああ……」

 その瞬間。
 俺の右頬に乾いた音が鳴った。
 それは魅音が俺のことを、叩いたのだから。
 突然のことに俺は言葉を失った。

「………………最低、最低だよ。圭ちゃん」
「なっ! 何が最低なんだよ!! 俺はっ」
「ならどうしてレナなんかに相談したの!? ねぇ教えてよ圭ちゃん!! 本当に私のことが好きなの、圭ちゃん!? ねえ答えてよ! 答えてよ! 答えてよっ!!」
「ど、どうして魅音にそんなことを言わないけないんだよ!! 俺は魅音のことが好きだって言っているだろ!」
「……………………嘘つき。だったらレナの気持ちを考えてよ、私の気持ちを考えてよ!!」

 そうして魅音は涙を流しながら俺の前から走り去ってしまった。
 俺はなにもすることが出来ず、ただその姿を眺めているだけだった。

 翌日、俺は放課後分校の教室で一人項垂れていた。
 茜色の落ちる夕日。
 沙都子や梨花ちゃんや魅音の姿はそこにはいなかった。
 それに今日は魅音の姿がなかった。
 否、そうじゃない。
 魅音はもう分校を卒業した。
 だから昨日まで魅音は自主的に来ていただけであって、もうこの分校の生徒ではなかった。本人曰く一人だけ春休みなんてつまらなーいから来ているそうだ。なんだそりゃ。
 まあ魅音の場合志望校にも無事に合格したからそんな真似をできるのだが。
 閑話休題、俺は頭を抱える。
 何もやる気が起きない。
 何もする気が起きない。
 目の前がまるで深紅の海に呑まれたような気分。
 刹那、俺がつっぷしている机の前に気配があった。俺はがばっと身体を起こした。もしかしたら魅音かもしれない。
 しかし、そこにいたは魅音ではなく、レナだった。
 
「ねえ圭一くん」

 抑揚のない声でレナは言った。

「圭一くん……どうしたのかな、かな? 元気がないよ」
「………当たり前だ。俺は……」
「もしかして、圭一くん。言っちゃったんだ……」
「ああ……なあレナ、俺って最低だよな。俺って、なんだったんろうな。魅音に告白したのに、相手の気持ちなんて全然考えてなかった。それだけじゃない、お前の、レナの思いも」
「それ以上言わないで!!」

 レナは突然怒鳴った。
 
「圭一くんに何が判るの!? 圭一くんに何が判るの!? 私は、私は……圭一くんのことが好きだった。想っていた……でも魅ぃちゃんが、魅ぃちゃんが……」
「れ、レナ…………それって、本当か」
「あ、あははは…………本当だよ、圭一くん。魅ぃちゃんが想っていたよりも、ううん、魅ぃちゃんよりもずっとずっと想っていた。でも、魅ぃちゃんも好き。だから好き同士一緒になって欲しかった。だからレナは二人をくっつけようとした。今だけの限定、そう、今だけの限定って……そう、想っていたのに、想っていたのにっ!!」

 するとレナは身体を動かし、俺の座っている椅子の横につき、何も言わずに座りだした。
 レナとこんな近距離で対峙するのは初めて。
 だからだろうか、俺の心臓の鼓動は高鳴っていた。

「レナ……」
「ねえ圭一くん……レナどうしたらいい? さっきからドキドキ止まらないの。ううん、そうじゃなくて、止めたくないの。だって大好きな圭一くんが目の前にいるんだから」
「そ、それは」
「圭一くんは魅ぃちゃんのことが好き? それともレナのこと、ううん、私のことが好き?」

 俺は答えられなかった。
 どうしたらいいのか、どう答えたらいいのか。
 刹那、レナの方からゆっくりと顔を近づく。そしてレナの柔らかい唇が俺の唇に重ねる。それはまるでプリンやケーキのように柔らかくて、そしてどこか心地よいものだった。
 キスだけならともかく今度はレナの舌が俺の舌と絡めてきた。それは一言でいえばとても蠱惑的な動きをしていた。 
 レナの鼻息が荒くなってきた。俺は突然のレナの行動に対処できない。
 そうしてレナはゆっくりと唇から離れる。

「はぁ、はぁ……ねえ、圭一くん」
「レナ…………」
「………………圭一くんはこの後どうしたい? 私はキスをあげちゃった。実はこれ、ファーストキスだったんだよ。でも、圭一くんに奪われたなら嬉しいよ。でもね、私は圭一くんともっと一つになりたい。もっと深いところまで一つになりたい。レナの言う意味判るかな?」

 するとレナは俺のズボンに、手を当てた。
 
「レナはもっと、もっと……したいの」
「……っ!!」

 すぐさま俺は座っていた椅子から立ち上がり、レナの行為を制止した。
 レナはきょとんとしながら憂いな瞳を俺に向けてきた。

「……どうしたの圭一くん? 圭一くんもそれを望んでいたんじゃないのかな、かな?」
「レナ、どうしちゃったんだよ、こんな……」
「レナはどうもしないよ。どうもしてないよ……だってずっとこうなることを望んでいたのだから」
「だからって!! …………」

 俺はやっと理解する。
 自分がしてきた愚弄。
 自分がしてきた陵辱。
 それがレナを、魅音を苦しめた。

「ごめん、レナ。俺は……魅音のことが」
「…………そっか……圭一くんなら私の初めて奪ってもよかったのに」
「そ、そんなこと人前で言うなよな! 俺が恥ずかしくなってしまうじゃないか!」
「あははは……でもね、圭一くん、本当にそう選んだのなら……うん、もういいや」
「ありがとう、そして……ごめん」
「いいよ。私も、ごめんね。でも……圭一くんのことレナは今でも好きだから」
「……………」

 そうして俺は鞄を取り、教室を後にする。
 ふと振り向くとレナは満面の笑顔で手を振っていた。
 夕暮れを背にして写ったレナはどこか、美しかった。
 でもよく見るとレナは大粒の涙を流しながら泣いていた。
 でも必至になって笑顔を作っていた。
 俺にはそれが酷く痛く、切なかった。
 でも、俺は。






 分校からでると俺は園崎家に向かった。
 こんな時間に行くのは失礼かと思ったが明日改めてという考えはなかった。
 今、魅音と会いたかった。
 その想いが行動によって現れたのか俺は駆け足だった。時折ふく風が頬に当たり、それが酷く突き刺さるように痛い。
 でも、俺は魅音が。

 そうして俺は園崎家の玄関に到着すると、はぁはぁと肩で息をした。
 息を整えてからインターホンを押そうとすると、玄関のほうから誰か人の出てくる気配がした。
 俺はあの、と声をかける。
 するとその人ははいと言い、そして対峙。
 
「…………魅音」
「…………けい、ちゃん」

 俺達は気まずい雰囲気になり、その場に佇んでいた。
 その間沈黙だったが「ねえ」と魅音の方から切り出した。

「いつまでも玄関にいるのはあれだし、私も買い出しに行く最中だったから……散歩でもしない?」

 俺はああと頷いた。

 俺達はあたりを歩いていた。
 目的なんかない。
 ただ……それだけ。
 気がつくと人気のない森の中にいた。

「それで」魅音は言った。「何の用かな、圭ちゃん」
「それは……な、魅音。俺が悪かった」
「? それってどういうこと?」

 魅音は首を傾げながら訊く。

「俺、魅音の気持ちに全然気づいてなかった。お前がどんな想いで」
「ストップ。で、圭ちゃん。何が言いたいのか判らないんだけど……はっきり言ってよ」

 俺は一端深呼吸をして、そして言った。

「俺は魅音のことが好きだ。それは変わらない」
「………………ホント? 圭ちゃん? 本当に私のことが好きなの?」
「くどいな、魅音。俺は……」

 途端、魅音は俺に抱きついてきた。
 
「本当に、私のことが好きなんだね」
「……ああ」
「…………そっか………なら、圭ちゃん。今日の放課後教室でレナとキスをしていたことはどう説明するのかな?」

 その時俺の心臓がどくんと一気に脈打った。

「み、魅音。お前……見ていたのか?」
「……うん、私も昨日は言い過ぎたと想っていたからついさっき分校に行ったら……見ちゃったの。圭ちゃんとレナがキスをしているところを。しかもレナも圭ちゃんも、いい雰囲気で……なに、圭ちゃんってやっぱりレナのことが好きなんじゃん、って思ってすぐにその場を後にしたの。だって、私空気読めないでしょ? だから」
「違う! 魅音、それは違うんだ!」
「じゃあ何が違うっていうの!! レナは可愛いじゃない! 変わって私はがさつだし、おじさんっぽいし、空気読めないし、こんなだし…………あははは。これじゃあ圭ちゃんに捨てられるのも意味ないか……だって私、空気よめないし」
「違う! 違うんだよ!! 全部俺が悪いんだよ!! 俺が魅音の気持ちを全然判らなかったから! だから……」
「……………なら圭ちゃん。レナがしたことを私にもできる?」
「それは…………」
「………………ほらね。圭ちゃん。こういうことだよ。だからもう」

 刹那、俺は魅音の両肩を掴んで、唇を強引に魅音の唇と重ねた。
 魅音も突然のことで驚いたらしく、吃驚していた。魅音のキスの味はどこかリンゴの味がした。
 さっきレナが俺にしたように、俺も魅音の舌と俺の舌を絡めた。
 百足のように蠢く舌と舌。
 俺は興奮しているのか、鼻息が荒かった。
 それからゆっくりと魅音の唇から離すと舌についた唾液が糸のようにひいているのが見えた。
 魅音は顔を紅潮させて、恥じらいにも似た顔を俺に見せた。それは今まで俺が見てきた園崎魅音と違い、とても乙女だった。
 はぁはぁと俺達は息を荒げた。
 それはまるで本能をさらけ出す動物のように。

「はぁはぁ……魅音……俺」

 魅音は何も言わなかった。
 だが抵抗もなかった。

 それから理性は効かなくなった。
 俺は魅音の豊満な胸をもみし抱きそして、魅音も俺の……。
 それは人ではない。動物だった。
 ただ己の性欲を満たすための行為。
 俺は魅音を欲し、魅音もそれを受け入れる。
 魅音は痛そうな顔で涙目。
 それはとても綺麗だった。
 俺が魅音の初めてを奪ったという悦び。
 俺が魅音の初めてを奪ってしまったという喪失。
 卑猥な声と卑猥な音と卑猥な行為。
 互いが互いを求め合う。
 それは酷く蠱惑的であり、酷く淫靡。
 弓のように喘ぐ魅音。
 獣のように動く俺。
 でもそこには愛があった。
 愛があった。
 愛があった。
 愛が…………。
 どうだろうか。
 愛があったのだろうか。
 これはただの行為。
 でも二人で一緒の行為。
 だからこそ、
 俺と魅音は声を荒げ、己の願望と絶頂を求め、そして果てた。
 たが徐々に興奮が冷めていき、後に残るのは痛みだけだった。
 

 俺達は行為を終え乱れた服を整えた後、寄り添うように座っていた。
 俺は呆然としていると魅音がふと呟いた。

「ねえ、圭ちゃん」
「ん、なんだ魅音」
「……えっと、ありがとう」
「そ、それは……その、こちらこそ」

 紅潮した顔の魅音。それを見て俺も顔を赤らめる。
 でも、

「でもね、圭ちゃん……私……判らない」
「? 判らないってなにが?」
「愛すってことが。なんだか余計判らなくなってきちゃった」
「そ、それは……」

 魅音は俺の言いたかったことを言ってしまった。
 そう、俺も魅音の言うとおり判らない。
 何がなにで、何がなにだか。

「私は圭ちゃんとこのまま一緒にいたい。一緒に添い遂げたい。圭ちゃんと、その……したおかげで余計おもっちゃった。でもね……だからこそ判らないの」
「魅音、それは…………ん」

 それは言わなくても判っていた。
 否、言葉にできなかった。
 
「あはは。圭ちゃん、実は私の言いたいこと判るんじゃないのー?」
「………………」

 俺は無言のまま答えなかった。

「まあいいや。それでね……圭ちゃん、私達、本当に好き同士なのかな」
「どうだろうな。少なくとも俺は魅音のことを、想っているけど」
「ふうん。そっか……私も圭ちゃんのこと好きだよ」

 魅音は顔をくしゃとしながら笑顔で言った。顔を赤らめながら言った。
 俺もそうだと言った。
 でもなぜだろう、俺の心はまるで何かを失ったような喪失感があった。
 なぜだろう。魅音と一つになったのに、心の底から一つになった感触がまるでなかった。
 お互い好きなのに……。
 判っている、そんなこと。
 そんなこと。
 でもそれは言葉に伝えなきゃ判らない。
 行動だけじゃ相手に伝わらない。
 それが何より失礼。
 俺がレナにしたように。俺が魅音にしたように。
 だから。

「なあ魅音、一ついいか?」
「ん、なに。圭ちゃん」
「…………俺達って恋人かな」
「…………端から見たらそう思うんじゃないのかな」
「なら魅音、お前はどう思う?」
「………………判らないな」
「そうか……実は俺も判らない。お前が本当に好きなのか」
「なんだ……やっぱり圭ちゃんも同じこと考えていたんだね」
「魅音も、そうなんだな」
「……うん」

 そうして俺達は立ち上がる。
 その時風向きが変わった。俺の横にいた魅音自慢のポニーテールが靡いているのが判った。
 ゆらゆら凪ぐ魅音の髪。緩慢な仕草のそれは何度見ても飽きない。
 ねえ圭ちゃんと魅音が声を発した。
 俺は何と答えると魅音は目配せしながら淡々とした言葉でその言葉を言った。

「愛って何だろうね」

 俺は何も答えられなかった。
 だってそんなこと知らない。
 何が愛だなんて俺は知らない。
 だって、

 それは泡沫だから。





 
 翌朝、俺はいつもより早く家を出た。レナとはまだギクシャクしたまま。
 というより顔を合わせづらい。
 昨日あんなことがあったからな……。
 って朝早くから何を考えているんだ、俺!!
 思わず顔を真っ赤にしたのが判った。
 ふと顔を元に戻すとそこには見慣れた人影があった。
 レナと魅音がいた。
 レナはともかく魅音も学生服。

「よ、よう。二人とも早いな」
「あ、圭一くん。おっはよ~! 圭一くんも早いんだね、だね」
「あひゃっひゃっひゃ。こんな朝早くから目覚めるなんて圭ちゃん、溜まってるんでしょ。こういうのは一発だしてはらすのが」

 刹那レナが魅音に向かってレナパンを繰り出した。
 ちなみに俺も巻き添えを食らった。

「はぅ~! レナ、魅ぃちゃんの言っていることが判らないな、ないな!」
 
 そうは言いながらもレナの顔はとても真っ赤だった。
 
「っていうか魅音、お前まだ来るのかよ。卒業式の感動を返せ!」
「へん、そうそう返してたまるものですかー。それに圭ちゃん最近たるんでいたからねー。これじゃあ次期部長を襲名させたおじさんのメンツが立たないからね! これから鍛え直すからね。くっくっくっく」
「鍛え直すってお前……」
「今年の綿流しは去年のように甘くはいかないよぅ~」
「そ、それは俺の台詞だ!」
「はぅー。次こそはレナが綿流しで圭一くんのオットセイを……ってきゃ!」

 刹那、レナは瞬く間に俺と魅音にレナパンを放った。
 なぜ?

「レナにこんなことを言わせるなんて、ひどいんだよ、だよ!」
「誰も言っていないじゃない」

 魅音の寂れた声はとても悲しかった。

 そうして俺達三人は分校に向かう。
 バレンタインデーから昨日までのことがまるでなかったかのように。
 でも、
 
「!」

 俺は右手に人肌の感触があった。振り返ると魅音が恥じらいながらも左手で俺の手を握っていた。
 レナは気づいていないようだったが、急に空を仰ぎ、あと小さな声を出しながら指を指した。

「圭一くん、魅ぃちゃん、空を見て。飛行機雲なんだよ、だよ」

 そこには一直線に伸びる飛行機雲があった。
 ただただ真っ直ぐ、伸びる飛行機雲。
 その時魅音が吃驚したような顔をして俺の顔を見た。
 そんな風に見られると俺も恥ずかしくなってしまった。
 俺は顔をあからめながら、ゆっくりと魅音の握っていた手を握り返す。
 レナは飛行機雲に見取れていた。
 いや、レナのことだから気づいているのかもしれないな。
 そう思うと俺は酷く胸が痛く、そして申し訳なかった。
 でもそれ以上に魅音のことを愛しい。
 だからこそ愛が判らない。
 何が愛で何が恋か。
 つまり、一連の俺達は恋に恋していただけだったのかもしれない。
 
 俺達はまた大人になったのだろうか。
 三月の風はとても痛く、そして生暖かい。
 全ては始まりを告げ、全てはまだ別れを告げていない。
 でもだからこそ俺は何かを探したいと思っている。
 それは痛みが残る今でさえも。
 
 そうして俺達は擦れ違っていく。
 飛行機雲はどこまでも遠く伸びていた。

                                               おわり


2008/03/01 16:12 | SSCOMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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