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シロツメクサ







 ぽっかりと穴の空いた高層ビル群の群。
 人気のいない中央線。
 動かない信号と機能を失ったコンビニ。
 
 そんな風景を見るととても苦しく思う。
 だからなのかな。
 朝日は今日もあたしのことをあざ笑っているように見えた。


         ◇


 車輪の音がアスファルトを駆けていた。
 あたしは自転車に乗りながら学校から帰宅中。
 ただペダルを漕いでいるだけなのにそれだけで妙に心地が良い気分。
 ふと視界を街の方に向ける。
 街はいつもと変わらない風景。
 ただ、今のあたし達にとっては、だけど。

 だってその街には言葉に代えがたいほどの花が咲き誇っていたのだから。
 花、といっても枝から街を浸食しているような感じじゃなくて……うん。説明するのは凄く難しいんだけど一言でいうのなら街に雪が降って、その雪が固形となっていること。
 それが花なのかと問われるとなんとも説明しにくい。というかあたしに求められても困るんだけど。

 それは突然やってきて、いつの間にかあたし達の生活の中に入り込んできた。
 花はどことなく白詰草に似ているとあたしは似ていると思ったけど、どうも微妙に違うみたい。
 その花……は宇宙人との侵略とかマスコミは騒いでいたし、TVに出ている政治家もみんないっていたけどどれもみんな的はずれ。そしてなにもしてこないことを知るとマスコミとかも注目せず、たんなる邪魔者扱い。
 住民が役所に「気味が悪いから早くどけてくれ」という排除の連絡がいっているとか。
 でもこの花は雪と違っていつ降り止むかも判らない。
 いつ発祥したのかさえわからない。
 だって雪じゃないから気象予報士も立場がない。

 でもあたしはそんな花たちが好きだった。
 どこがどう好き……かはちょっと言葉にできないけど。
 
 
          ◇


 気がつくと白詰草じみた花はあたし達に攻撃を開始してきた。
 いや、攻撃という表現は正しいのかわからないけど。
 でも花たちは人間達が邪魔なんだと思う。
 気味が悪いというだけで排除する人間達が理不尽すぎて……だからなのだと思う。
 それは強いて言うのなら静かなる戦争だった。
 つまり、大切な人が花に犯される、ということ。
 花の持つ液が人間に牙をむくということ。
 人は花を余計毛嫌いしていた。
 花もまた人のことを毛嫌いするようになった。
 言葉すら持たない物同士が至った悲しい末路。

 それでもあたしはこの、白詰草に似たような花が好きだった。
 今日も自転車を駆ける。
 全部が悪いということじゃない。
 全部が正しいということじゃない。
 うん……言葉が見つからないな。
 でも、あたし、一つ自慢があるんだ。
 花たちはあたしのことを毛嫌いしていないみたい。
 ううん。それどころか気に入ってくれているみたい。
 気持ちが通じ合える。
 そんな気がしたの。
 それを人に言うとどうなるか……あたしは判っていた。
 判っていたけど、言わずには言えなかったの。
 だってそうでしょ?
 誰かに何かを言わない限り、何も始まらないんだから。

 
         ◇


 こうしてなぜか事の表舞台に立ったあたし。
 交渉役……だなんて変な肩書きを貰った。
 学校の制服から軍事服……みたいなへんな服を着させられた。なんかのコスプレ?
 もう自転車に乗って花たちのことを見ることはできなくなった。
 人間の代表?
 ただ花みたいなのと交流みたいなのができたから?
 このあたしが?
 なんだか凄い笑い話……今まで日常だったことが気がついたら非日常へと転嫁していった。
 偉い政治家は言っていた。
 早くなんとかしろ。
 偉いエリートは言っていた。
 さっさとこいつらを地球からいなくなるように言え。
 ……みんな自分勝手だった。
 もちろん言い分も判る。
 だってこれまであたしの日常を作ってくれて、支えてくれた人達だもの。それは判るよ……。
 でもね、この人達はいつまで。
 いつまで見ているのだろう。
 日常だった頃の、今じゃとっくに終わった世界のことを。
 

           ◇


 卵か先か、鶏が先かだなんてあたしには判らないけど、最終的にはどうなったか……どうなったかなんて、知りたいの?
 最終的には敗者のいない世界。
 そして勝者のいない世界。
 つまり、世界としては……どっちも終わっていた。
 人が生きている。
 花も生きている。
 でもあたしがこれまで生きてきた日常という世界が終わりを迎えていたということ。
 ちなみにあたしは人として生きているのか、花としていきているのか……正直判らない。
 どっちからも非難されて、どっちからも大事にされて。
 そしてどっちからも見捨てられて。

 あたしは一人大人になっていった。
 今はもう自転車に乗って駆けることはできない。
 
 けれど……ここで終わりじゃないから。
 まだ取り戻したいものがあるから。

 そのために、あたしは、死ねない


  



      


 アスファルトが水面に覆われている。
 かつてあたしが住んでいた街は、街と言うには憚れるぐらい崩壊していた。
 誰もない世界。
 ううん、誰も住んでない世界なんてない。
 でもかつてあたし達が住んでいた世界はここにはなかった。
 非日常という名の日常。
 それがこの世界。

 
         ◇


 あたしが取り戻したいもの。
 それはかつてみた自転車でみた街の風景そのもの。
 だからそのためにあたしは努力した。
 どう努力したかといえば……うん、言葉に説明するのは難しいけど。
 花たちと人間の戦争……正直な話、戦争という表現も正しいのかさえ判らないけど……お互い疲弊しきってもう戦う気力すら残っていなかった感じだったけど最後の戦争を始めた。
 それは本当の意味での最後。
 あたしもどうにかなるか判らないけど、そこに参加していた。
 だって取り戻したいものがあるから。


         ◇


 天空は弧を描き、破壊という水面が新しい景色を作り出す。
 非日常というモノが日常へと転嫁していく創造物。
 その戦争はお互いの存亡をかけたもの。
 花は今も咲き、人間はそれを排除する。
 たったそれだけのことなのに、あたしは……ううん。あたしも含めてみんな大切なものが奪われた。
 これまで信じてきたものの多くが奪われた。
 そして同様にあたし達も白詰草みたいな花のことを奪ってきた。
 どっちもどっち。
 自業自得。
 傍目から見れば確かにそうなんだろう、うん。
 でもこれの勝敗は実にシンプル。
 どちらかを根絶やしにすればいい。
 シンプルに考えればそれで十分。
 でも……それは嫌だった。
 あたしが取り戻そうとしている景色は、それじゃないから。


          ◇


 最初のコンタクトから大分掛かったけどあたしは花たちと会話することに成功した。
 それまではなんとなくとしか接することができなかったから。

・はじめましてになるのかな

 うん、そうだね。

・きみたちはまだいきていたいの?

 うん、生きていたい。

・こんなになっても?

 こんなになっても。まぁ人によるけどね。

・きみっておもしろいね。にんげんなのに。

 そういう彼方たちもそういう感性があるんだね。

・とうぜんだよ。ぼくたちだっていきるげんりぐらいもっているよ

 ねぇ一つ訊いていい? 彼方たちはどうして地球にきたの?

・どうして? それは…ぼくたちでさえもわからない。だた決められたちゃんねるにそってきたら、このほしにいきついた。


 チャンネルってなに?

・そうだね……せいめいたいにはじぶんでうごくけんりはないんだ。たとえそのけんりがあったとしてもそれはなにかのちゃんねるにたどっていきつくだけ。


 それはあたし達でさえも同じ事なの?

・おなじことだとおもう。だからぼくもきみもこうしてかいわできているんだから。

 なんだか後付の屁理屈ね。その考え。
 どうしてそういういい言い方しか言えないのかしら。

・そうかもね……ぼくたちはおそすぎたのかな。もっとはやくこうしておけばきみもぼくもうしなうものはおおくはならなくてすんだはずなのに。

 そうかしら……だってifなんてないし。
 そんなのあったら……あたし、悲しい。

・でもこうしてかいわできているのは、すごくうれしい。

 うん、あたしも嬉しい。
 彼方たちとはずっと会話したかったから……ううん、会話だけじゃなくて、もっと色々と知りたかった。
 
・うん。ぼくたちもそうしたい。


 それが花たちとあたしの会話。
 最初で最後の会話。
 それから、この会話をきっかけに急進派と保守派と枝分かれをし、そして自体はさらに混沌へと行く。
 これもチャンネルに縛られた生命体の末路なのかな。
 あたしにはわからない。


         ◇


 時は経ち、地球からほとんどの生命体というものが消えていった。
 自体は人対花たちから人対人、花対花や、それが入れ替わったりかわったりとしてもう何のために戦ってきたのかさえ判らなくなっていった。
 多くの人間がなくなっていくのを見送った。
 多くの花たちがいなくなるのを見送った。
 でも、まだあたしがいなくなる順番は巡ってこない。
 それは……判っていた。
 もうあたしが取り戻したかっていた景色はとうに取り戻せないことを。
 それこそ終わった世界にしがみつこうとしている政治家達と一緒。
 代償……とか言う言葉で片づけられるかどうか判らないけど


         ◇


 全てが終焉を迎えた世界。
 あたしは一人自転車を漕いでいた。
 もう街の姿もない。
 かつて自転車を漕いでいたアスファルトもかなりの部分が抉られ、水面がある個所もところどころあり、通路としてはもう使い物にならなかった。
 取り戻したかった景色はかなり変わっていた。
 でも、使い物にならなくても、そこに道があったことが、唯一の救いだった。

 あたしはかつて通っていた制服に袖を通す。
 いや、かつて通っていた制服はもうボロボロになって、他のところから寄せ合わせて縫って作った制服のまがいのものと言っていい。
 だから制服というには語弊があるけど、でもあたしが決めた。これがそうだと。

 自転車も昔あたしが使っていたものはとっくのとうに壊れてしまい、同じタイプのものはもうない。
 だからこれも寄せ集め。
 それでもあたしはよかった。十分すぎた。

  
         ◇


 自転車を漕ぐ。
 車輪の音がアスファルトと水音が混じったようなもの。
 遠くの景色を見る。
 そこにはかつて街があった。
 そこがあたしにとっての日常だった。

 ……なんでだろう。
 なんだか、涙が零れてきた。
 
 ああ、そうかこれがただひとり世界に残されたという孤独。
 それともこれがことの顛末なのか今のあたしはよくわからない。
 
 花たちはもう天空から落ちることをやめた。違うチャンネルへといったのだろうか。
 あれから会話はない。

 その時ふと視線を外すとそこには白詰草みたいな、あの花が一つだけ残っていた。
 それは四つ葉のクローバー……うん、そうなってそこにあった。
 それを手に取り、あたしは胸の中で優しく包んだ。
 もう取り戻せないものは取り戻せなくていい。

 だから、どうかこの世界がはじまってほしい。

 あたしはそう想うのだった。

                                                                 /end



   

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2010/02/21 12:59 | 7200TRACKBACK(0)  

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