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iru

 古手梨花は前原圭一、竜宮レナ、園崎魅音、北条沙都子、古手羽入達と共に古手神社の桜を眺めていた。
 みんな騒いでいる。
 みんな浮かれている。
 私も浮かれたい、と梨花は思った。
 そうして手には醤油。
 楽しいことが始まる。
 そんな予感がした。


 『iru』



 昭和59年の4月になると全国的に桜が満開になり、雛見沢も例外ではなかった。
 人は桜を見るとつい高揚してしまう。それが今日における花見と同等であるように。
 だが梨花は桜に対して一種の嫌悪感を持っていた。
 それはある種の諦観。
 彼女は桜を見る度また一つ、溜息を吐いた。
 そんな彼女の仕草を倉庫小屋で同居している沙都子は怪訝な表情を浮かべた。
「梨花、一体どういたしましたの? せっかくのお花見なのですわよ。だから暗い顔を浮かべませんこと?」
「みー? ボクは暗い顔なんで浮かべてないのですよ。どちらかと言うと沙都子はかなりの羞晒しなのです。にぱ~~☆」
「ちょ、そんなこと言わないでくださいませ!」
 沙都子は狼狽えた表情をしながら後ずさりしていた。
 彼女は現在メイド服を着用している。勿論、罰ゲームである。
 数日前に部活をやったおり、沙都子の読みが悉く外れ、結果花見の時にメイド服を着用を義務付けられたのである。
 いや、彼女だけでない。周りを見渡すと圭一、レナ、魅音、羽入のそれぞれがメイド服を着用していた。
 沙都子のはオードソックス。
 圭一のはファンシー。
 レナは割烹着。
 魅音と羽入はアインツンベル○家のメイド服。
 つまり、部活は梨花の一人勝ちであった。
 時折全員が梨花に対して呪詛を籠めた睨みを浮かべていたが、気にせずにいた。
 勿論、花見は人数の多い方がいいに決まっている。
 そこで大石蔵人、赤坂衛、園崎茜、葛西達由、入江京介、鷹野三四、富竹ジロウと蒼々たる面子が集めた。
 ちなみに園崎詩音と沙都子の兄の北条悟史は二人で興宮にいる予定である。
 もっとも魅音は事前に手を打って電話で公由夏美と藤堂暁を雛見沢に呼び寄せていちゃらぶ展開にならないようにしようと企んでいる。たが問題は夏美と暁が既に恋人同士なので詩音の口車に乗っかり、別行動をしてしまうことである。
 だが当の魅音はそのことに気づかず素直に巨乳メイドをしている。
 みんな騒いでいた。
 みんな楽しそうだった。
 梨花はまた、溜息をはいた。
 楽しいことは目の前にあるはずなのに、どうして私の心は晴れないのだろうか。
「あぅあぅあぅ。梨花、なんだかつまらなそうなのですよ」羽入が訊いてきた。
「ええ。つまらないの。なんでかしらね」
「あぅあぅあぅあぅ。人にこんな格好させておいてつまらないとはなにごとですか。みんなもっと神様を敬えなのですっ!」
「・・・・・・・・・・・・貴女、そのメイド、キャラ違わなくない!? ハッキリ言って羽入、ツンデレじゃないからね!」
「あぅあぅあぅあぅ!! お前にキャラ設定云々言われる筋合いはないのですよ! この金の亡者め!」
「亡者って、貴女だって、シューの亡者でしょ!? それに私は醤油の魔法少女、古手梨花ちゃんなんだから間違わないでよね、馬鹿!」
「醤油の魔法少女ってそんな魔法少女この世にあるとお思いなのですか!? そんなことやったら全国醤油組合に告訴されるのですよ!!」
「ねえ、羽入知っている。PTAって一部の親が問題するだけであって、大半は無関心なのよ。だからそんな組合が着ても、この雛見沢のアイドル、ついでに『ひぐらしのなく頃に』の経済効果で私の株は大もうけよ! さあ、みんなボクに醤油とお金を湯水の如く落とせなのですよ!!」
「お前はいろんな意味で間違っているのですよ!!」
 
 梨花は羽入との雑談を終えるとふと鷹野の顔を見た。
 鷹野はにっこりと笑みを浮かべていた。
 どうしてだろう、嫌悪感がする。
 何かよかなる予感。
 すると、
「梨花ちゃ~ん。酔っぱらっちゃった~☆」
 顔を赤らめて急に梨花に抱きついてきた。
 それを見て富竹と入江は苦笑いをしていた。
「あはは。梨花ちゃん、鷹野さん家の中で暫く鷹野さんのこと、止むませてくれないかい?」と富竹。
「・・・・・・・・・・・・えっと」
「ん。どうかしたんですか? 何か都合でも?」
 入江の質問に梨花は咄嗟にかぶりを振りながら「なんでもないのですよ。にぱ~☆」と笑みを浮かべた。
 正直あまり人を家の中に入れたくなかった。家とは古手神社内にある本家のことである。
 両親と梨花は親子として乖離していた。
 それは梨花が一番理解している。
 だけど、
 そうこうしている間にも鷹野は富竹によって本家に運ばされていた。

 梨花は家の中に入り、かつて客間用に使っていた部屋に案内し、富竹は梨花の指示に従い布団を敷き鷹野を横に寝かせた。
「ごめんね~☆ ジロウさん、ごめんね~☆」
「あはは。鷹野さん、べろんべろんだね」
「あぅ~。梨花ちゃん、もっとこっちにおいでよ~」
 遠巻きに二人を見ていた梨花が呼ばれた。
 何で呼ばれたのだろうと近づくと鷹野は突然、梨花の頭を撫で始めた。
 突然のことに梨花も目が点になってしまった。
「な、なんなのですか? ボクは・・・・・・」
「あはは~。かっわいい~☆」
 鷹野はにやりと笑っていた、刹那。
「ねえ、どうして梨花ちゃんはつまらなそうな顔をしているの~?」
 核心をついてきた。
 梨花は顔を顰めた。
「そ、そんなこと・・・・・・。関係ないのですよ」
「関係ない、って本当かな~?」
「鷹野は一体何がいいたいのですか!?」
 眉毛をつり上げて激昂した表情を浮かべる梨花。
 すると鷹野は訥々と喋った。
「別に・・・・・・。ただつまらなそうって思っただけ。どうして梨花ちゃんは花見、嫌いなの!?」
「嫌いって・・・・・・それは」
「違う!? だってさ、一人だけつまらない顔しちゃって、みんなが楽しめば楽しむほど、梨花ちゃんの心は乖離している、って私は思うの」
 ・・・・・・図星だった。
 正確に言えば梨花は花見が嫌いではない。
 花見をした記憶、つまり昔、両親と一緒に花見を楽しんだ記憶を思い出すのだ。
「ボクは桜を見ると、両親を、思い出す。母の笑う顔、父の酔った顔。それが酷く気持ち悪いの」
 梨花の話を富竹と鷹野は相槌もせず、聞いていた。
 そして鷹野は、
「あははは~☆」
 笑っていた。
「みー。突然笑うなんて酷いのですよ! 折角・・・・・・」
「機嫌が悪くなったのならごめんなさい。でもね、いつまでも過去の記憶に縛られるのどうかなっ~て」
「え!?」
「うん、それは僕も賛成だな」富竹が言った。「悲しいことがあったのなら、いつまでもそんな記憶を引きずるよりも楽しい思い出を作ればいい。そうだろ!? 僕は少なくとも、そう思うな」
 梨花は何も言えなかった。
 楽しいことを作ればいい。
 そうか。
 梨花は、納得した。
 私はつまらないと感じていたのは単に楽しむのが怖かっただけだったのだ。
 両親のことを拘っていたのは単に臆病なだけだったんだ。
 だから私は・・・・・・楽しむことを、放棄した。
「ねえ、梨花ちゃん。鷹野さんは僕が見ているから梨花ちゃんは戻って良いよ」
「で、でも・・・・・・」
「ほら」鷹野は梨花の頭を触った。
 刹那梨花は険しい表情から逡巡し、それから。
 穏やかな表情を浮かべた。
 そうして梨花は鷹野と富竹を残して家から出る。
 出た途端。
 飛行機雲が梨花の眼下に広がっていた。
 一直線に伸びる飛行機雲。
 そして聞こえる。
 みんなの声。
 梨花は駆け出す。
 楽しいことを、するために。



                                      おわり
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2008/01/06 20:25 | 3600COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

(・ー・)akeruno

 それは十二月二十九日のことだった。
 古手梨花、古手羽入、北条沙都子は圭一の誘いで前原屋敷にいた。そこには竜宮礼奈、園崎魅音、園崎詩音の姿があった。
「で、まずは炎を題材に作文を書いて貰おうかねぇ」
「魅ぃちゃん、それ全然訳が判らないよ」
「みー。魅音の発想はいつも突発的なのです」
「そんなにおじさんを褒めないでくれないかぁ、くくくく」
「お姉、馬鹿にされているのに気づかないだなんて本当に可哀想なお人」
「でさあ、なんで俺の家にみんないるんだよ! さっぱり判らなねーんだけど!! しかも俺、メイド服着ているし!」
「圭一さんは突っ込みどころが満載ですわね」
「あぅあぅ☆ そうなのですね」
 冬の雛見沢は積雪が凄くこうして室内で遊ぶことが多い。それゆえ麻雀や魅音のこうした突拍子のない発想で遊ぶことが梨花にとっては毎年のことだった。
 その時ふと羽入が口を開いた。
「あぅあぅ。梨花、その言いたいことがあるんですけど」
「ん。何よ羽入。言ってみなさいよ」
「梨花の書く文体はちょっとおかしいのですよ?」
 この部活、題材の炎について作文を書くのはチーム戦である。即ち、ペアのものがお互いの作品をチェックして審査員である魅音に提出するものであった。圭一はレナ。沙都子は詩音。そして梨花は羽入と組んでいた。
「ちょっと! 文体がおかしいって一体どういうことよ!」
 梨花の突然の怒鳴りにみんなは驚いた顔をする。
「あぅあぅ。梨花。これは一人称なのですか三人称なのですか? ごっちゃになっているのですよ」
「それは……そうかもしれないけど」
「なので僕が修正するのですよ。あぅ☆」
「あ……」
 羽入は有無を言わさず鉛筆で書いた梨花の文を消しゴムで消して修正版と称し作文を書き直していた。
「それとここの文体はちょっと変なので直しちゃいますね……って梨花聞いていますか!?」
 梨花は不機嫌な顔をし、立ち上がった。
「私、帰る」
 突然の梨花の行動に皆制止したが梨花の決意は固かった。
 羽入はそうですかと言葉を書けると作文の方に戻してしまった。

 梨花は一人帰路につく。
 おもしろくない。たかだか作文を他人に修正しただけなのに。
 なのにすっごく気分が悪いわ。
 その時ふと見慣れた人影が近づいてきた。それは鷹野三四だった。
「あら、私の愛しの梨花ちゃん、こんにちはー☆」
「ふん。誰が愛しの梨花ちゃんよ」
 梨花はそう突き放した態度でいると、
「あー梨花ちゃんツンツンモード☆ また私を陵辱したりないのね!」
「みー! 鷹野は一体何を言ってやがるのですか! 陵辱なんてしないのですよ!」
「じゃああの日、私の家であんなに愛し合っていたのはなんだったの!」
「誰も愛し合っていないのですよ!」
「そうやってじらしちゃうのが梨花ちゃんのい・い・と・こ・ろ☆」
「うっせなのですよ!」
 梨花と鷹野は綿流しの時に一大喧嘩をし、今では互いの家に泊まりに行くほどの愛し合った関係になっていた。もっとも梨花は素直ではないため鷹野が梨花を家に呼んだり家に突然押しかけたりするのだが。
 鷹野は梨花に何があったのか話す。
 梨花は一呼吸置いてから前原屋敷であった経緯を鷹野に話した。すべて話し終えると鷹野はそれは同情するわ、と言う。
「だってその人、人の気持ちぜんぜん判っていないんですもの」
「みー。こんなことで怒る僕は変なのでしょうか」
 すると鷹野はしゃがみ込み梨花の目にかかった前髪に触る。梨花にはその指先は細く、とても心地よい感触だった。
「心配しなくても大丈夫よ。だってその人、文字で死んじゃうから☆」

 鷹野の分かれた後、梨花は家に戻り羽入と沙都子の帰りを待った。
 数時間後二人は帰ってきた。
 部活は梨花が突然帰ったのでノーカウントとなった。羽入は自信があったんですけどと愚痴っていた。
 そして夕食を食べ宿題をしているときのこと
「あぅ……?」
「ん。どうしたのよ。羽入?」
「………なんだか文字が上手く書けないのです」
「? 酔っぱらったの?」
「あぅ。それは梨花のことなのですよ!」
「ん。羽入さん。酔っぱらうでどうして梨花の名前がでるのですの?」
「あぅ。沙都子聞いてくださいなのですよ。梨花は……あぅあぅあぅあぅあぅ!!」
「ど、どうしましたの!? 羽入さん!? って梨花ー!! また檄辛キムチを食べていましたわねー!!」
「みー。ざまーみろなのですよ☆」
 梨花は少しだけ気分がすっきりした。

 宿題を終え、就寝の時間帯。
 梨花はしばらくワインを晩酌した後眠りにつこうと布団の中に入る。
 しばらくして、あぅ! と羽入のうめき声が聞こえてきた。
 梨花はどうしたの!? と声を掛けようとするが喉になにか突っかかる感覚に襲われて上手く喋ることができない。また体を動かそうとするが硬直して動かない。世に言う金縛りの状態にあった。
 羽入のうめき声はさらに大きい。
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!!
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!! 
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!
 かろうじて動く瞳を隣に寝ている沙都子の方に見るが、彼女はすやすやと心地よさそうな顔をして眠っていた。
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!!
 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい!! 
 羽入の叫び声はもはや絶叫と呼んでもおかしくなかった。
 だが相変わらず沙都子は羽入の声には気づかず寝ていた。
 なに? なにが起きているの!?
 首は天井を見続けたまま。
 羽入は一体何が!? 羽入に一体なにが!?
 梨花は心の中で羽入に呼びかける。いつもは梨花が何か答えると反応が返ってくるが今は応答はなし。
 なに。なによ。
 羽入は梨花の呼びかけに答えてくれない。
 代わりに羽入は叫び声と熱さを訴えていた。
 なんで? なんで? 
 もういい加減にして!! 
 梨花はそう心の中で訴えると羽入の叫びは一瞬にして途絶える。
 代わりに一気に静寂があたりを包み込んだ。
 何も音がしない世界。
 途端。
 それは音だった。いや音ではない。
 文字。
 文字の羅列が天井に一瞬にして溜まっていった。それは例えるのならムカデの集まりのようなもの。たがムカデのように生優しいものではない。
 だってそれは梨花には初めて見る光景なのだから。
 梨花は相変わらず金縛りの状態。
 文字の集まりはしばらく蠢いていたが梨花と目を合わせた途端、一直線に梨花に向かって……伸びた。
 その瞬間梨花は金縛りの状態が解け横にかわすことができた。
 文字の集まりは真っ逆さまに下に落ちる。それは砂時計で真っ逆さまに落ちる砂のよう。
 梨花ははぁはぁと荒い息と同時に凄い汗が額に出ていた。
 羽入を見る。羽入はとても安らかな表情をしていた。

 翌日、羽入は梨花に謝ってきた。
「あぅあぅ。ごめんなさいなのです。僕、他人の文字に修正を入れるなんて非道な真似をしてしまったのです。あぅ。梨花だからいいかな、と思ったのに。梨花の気持ちに全然気づいていなかったのですよ」
 梨花は突然のことに吃驚していた。


 それから。
 梨花は古手神社裏手の展望台で鷹野三四と合った。
 そして羽入のこと、昨日の晩のことを話す。
 すると鷹野はくすっと笑った。
「ああ、それはね。羽入ちゃん燃えていたんじゃない?」
「え!? それはどうして!?」
「だって梨花ちゃんがそう望んだんでしょ? 羽入ちゃんが文字を修正してしまった腹いせに」
「そんなこと……」
「そういうことよ。それにね、梨花ちゃん。文字の集まりが、っていたわよね。それはたぶん意志の籠もった文字よ。意志の籠もった文字は怖いのよ。だって文字ほど人の想いを憑依するものはないですもの」
 鷹野は後ろから梨花に抱きついてきた。
「で、その羽入ちゃん。無事だったんでしょ?」
「みー。無事だったのですよ」
 そう、と鷹野はつぶやき、
「昨日梨花ちゃんに言ったじゃない。羽入ちゃんは文字に殺されるって」
「そ、そうだったかしら……」
 梨花は上ずった声で答えた。
「ええ。もしかしたら羽入ちゃんは死んでいるのかもね」
「死んでいる? どうして?」
「だって……生きるかどうかわからないじゃない」
「……………」
 がさがさ。
 梨花の耳には昨夜聞いた文字の集合体の不愉快な音が聞こえた。
「ねえ鷹野。なら私は!? 生きてるの!?」
 途端、梨花は振り返って鷹野の顔を見た。
 鷹野はとてもやすからな顔をしていた。
 そして一言。
「さあ」

 そして梨花は■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 
 鷹野は梨花をぎゅっと抱きしめていた。
 とても力強く。
 そして鷹野の目の前に「炎」と言う文字に占領された雛見沢の光景が見えた。


(・ー・)akeruno

2008/01/06 20:27 | 3600COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

calender

ベットの上で寝ていた古手梨花は口に何かが重なった感触を覚えた。
梨花はゆっくりと目を開けるとそこには梨花の唇に重ねた鷹野三四の姿があった。ネクリジェを来て四つん這いしながら下に寝ている梨花に鷹野は笑みを浮かべて、
おはよう、梨花ちゃん。
鷹野はそういった。
梨花はおはようと挨拶を交わす。

「それにしても鷹野はなんのつもり。朝早くから私に口づけをするなんて」
「あら。梨花ちゃんったら朝早くだなんて。それをいったら昨日の夜あんなに私を求めていた貴女はどうなの?」
「お生憎様。昨日は昨日、今日は今日なの。一緒にしないでくださるかしら」
「しゅん。梨花ちゃんにまた怒られた~」

鷹野三四は頬を赤らませて憂いな表情を浮かべた。
それを見て梨花は少しの間頭を掻きながら鷹野の表情を眺め、はぁと溜息をついた。
そして梨花は両手で鷹野の顔を近づけてゆっくりと鷹野に唇を重ね合わせた。舌を動かせながら数秒間。
梨花はゆっくりと鷹野の唇から離れる。

「これで満足?」
「…………ええ」

鷹野は悲しい顔から一瞬にして笑みを浮かべた。
それを見て梨花も思わず笑みを浮かべた。

「ねえ鷹野。いい加減上をどけてれない? 起きあがれないないんだけど」
「あ、ごめんなさい。梨花ちゃん」
「まあ貴女が朝から私を求めるのなら話は別だけどね」
「……梨花ちゃんのえっち」
「そんなにしょげないで……あと明けましておめでとう、鷹野」
「うん。明けましておめでとう、梨花ちゃん」

そうして二人はゆっくりとベットから離れた。

それはまだ一月の話




雪が積もり未だ冬を抜けない雛見沢。
鷹野と梨花はお互いにバレンタインチョコを渡した。

「あらら。梨花ちゃん。前原くんとかにチョコを渡さなくてもいいの?」
「それを言うのなら鷹野だって入江や富竹に渡せばいいのに」
「うふふ。二人は義理チョコで十分よ。私には梨花ちゃんがいるんですもの」
「それは私も同じよ、鷹野」

そうして二人は渡したチョコを食べ、ベットで横になりお互いを求め合う。

それはまだ二月の話




雪が溶け始め、すこしつづ春の兆しが見えてくる雛見沢。
この日鷹野と梨花はピクニックに出かけた。

「みー。それにしても鷹野ってどうしてこうオカルトマニアなのかしら」
「あら。オカルトなんて失礼ね。これも立派な考古学の一種よ。梨花ちゃんにもスクラップ帳を渡したでしょう?」
「それならいっそのこと小説にしてどこかの小説大賞に送ればいいのに。鷹野の文字ならたぶんどこかの出版社が食いつくと思うけど」
「うふふ。嬉しいことを言うじゃない梨花ちゃん。後でまた熱くなりましょう♪ でも私は反対ね。だって梨花ちゃんと一緒にいられる時間が少なくなるなんて嫌ですもの」

梨花は思わず顔を赤らめた。

それはまだ三月の話




桜が満開の雛見沢。
鷹野と梨花は仲間の花見をしているところから少し離れた場所で二人きりになっていた。

「ねえ梨花ちゃん。桜って人の血を吸っているって聞いたことあるでしょ?」
「ええ。そういう話があるわね」
「じゃあ私達もそんな関係なのかしら」
「み? それはどういう意味なのですか?」

そうした途端鷹野は梨花に口づけをした。
しばらくして唇から離れた後梨花が言った。

「……そうね。血をすうのはともかく鷹野にはそれぐらい激しいのがいいのね」
「………………えへへ」

それはまだ四月の話




草木は緑かかり夏の暑さが徐々に出てきた雛見沢。
梨花は鷹野に薔薇を渡した。
それを見て鷹野はぷーと頬を膨らませながらすねた。

「私梨花ちゃんのお母さんじゃないもん!」
「鷹野、そんなにボクからの薔薇はいやなのですか?」
「嫌じゃないけど梨花ちゃん、私のことお母さんと勘違いしているんじゃ」
「くすくすくす。そんなわけないじゃない。薔薇の花言葉は情熱よ、確かね。つまりはそういう意味」
「…………もうー梨花ちゃんはいつもこうなんだから」

鷹野はまだ拗ねた表情をしていたが梨花からの薔薇をもらった。
それを見て梨花も安堵した表情を浮かべた。

それはまだ五月の話。




綿流しの季節がきた雛見沢。
夜、梨花は満月を眺めていた。その時後ろから気配がした。

「鷹野、どうかしたの?」
「ん。どうも月夜を見ると嫌なことを思い出してね」
「鷹野が私のことを殺す夢?」
「……なんでもお見通しなのね、梨花ちゃん」

鷹野は後ろから梨花を抱きついた。
鷹野のからだは震えていた。
梨花は両手で鷹野の両手を添える。
しばらくして鷹野から震えがとまった。

それはまだ六月の話




梅雨明けをし、快晴な天気が続く雛見沢。
アサガオは見事開花し、鷹野は着物を着ながらアサガオを見ていた。一方梨花は宿題のアサガオの観察日記をつけていた。

「あーもー。なんでアサガオの観察なんてしなくちゃいけないのかしら」
「くすくすくす。梨花ちゃんったら飽きっぽいのね」
「それはおあいにく様。私は鷹野の観察日記なら何年やってもいいわよ」
「うふふ。じゃあこの後私の観察日記、する?」

そうして梨花は鷹野に抱きついた。

それはまだ七月の話。




夏本番の雛見沢。
梨花と鷹野は他の仲間と一緒に海に海水浴にきていた。

「みー。鷹野ってなんていやらしい体をしているのかしら」
「や、やだ。梨花ちゃんそんなにみないでよ。それに見飽きているんじゃないの?」
「冗談。飽きなんてしないわよ。でも……やっぱり許せないわね」
「きゃ、梨花ちゃん。水鉄砲を私にむけないでー! つめたっ」
「ふん。いい気味ね。あーこれですっきりした」
「見てなさいよ。夜は私が攻めてやるんだから」
「ふん、せいぜい楽しみにしているわ」

二人は心の底から笑っていた。
それはまだ八月の話




夏の暑さは通り過ぎ秋の訪れが来る雛見沢。
梨花と鷹野は古手神社裏手の花壇にいた。
梨花は鷹野のことを倒し四つん這いになる。

「きゃっ、こんなところでするの? 梨花ちゃんのえっち」
「場所なんて関係ないわよ。それとも鷹野は場所を選ぶ余裕があるってことは私への愛ってその程度のものだったのかしら」
「……そんなんじゃないけど」
「ならいいじゃない。さあ」
「あっ」

そうして梨花は四つん這いをゆっくりと崩し、鷹野の体と重なった。

それはまだ九月の話




秋本番の雛見沢。
その日鷹野と梨花は雛見沢分校の体育祭に出ていた。

「鷹野、二人三脚一等よ」
「うふふ。少しでも梨花ちゃんに貢献できていればよかったんだけど」
「ええ。もう十分貢献したわ。これは私からのお礼よ」

そうして梨花は鷹野の頬にキスをした。

「梨花ちゃん……」
「うふふ。もっともっと私に貢献できれば今日の夜、ご褒美をするからね」
「それはがんばらなくちゃね」

二人は頬を赤らめながら次の競技が何かを仲良く確認した。

それはまだ十月の話




落ち葉が増え始め冬の到来がまた始まる雛見沢。

「きゃ。梨花ちゃん、落ち着いて」
「うふふふ」
「もう、そんなに攻めないでったら」
「たまにはこういう趣向を凝らしてもいいでしょ」
「いや! 梨花ちゃん、私、こういうのは好きじゃないの……」
「本当に? 体は正直よ」
「……ぁ。ゃ」

それはまだ十一月の話




雪が降り始め一面白銀の世界に染まった雛見沢。
鷹野はカレンダーを眺めていた。

「ん。どうかしたの、鷹野? 急にカレンダーなんか眺めて」
「梨花ちゃん……なんだか一年ってあっという間だったなぁって」
「そうね。なんだかんだ言って月日が経つのは早いわね」
「なんだら梨花ちゃん、今年ずっと私のことを求めていた気がするな」
「み。それを言ったら鷹野だってそうじゃないですか」
「来年もいいとしだといいわね、梨花ちゃん」
「ええ。そうなることを切に祈るわ」

二人は同時に笑みを零した。

それはまだ十二月の話




そうしてまた年が明ける。
月日はまた繰り返す。


ひぐらしのなく頃に。


                                   おわり

2008/01/06 21:42 | 3600COMMENT(2)TRACKBACK(0)  

poca felicita

《poca felicita》


 古手梨花は目を覚ました。
 そこには言葉では言い要しがたい光景があった。
 なぜこんな世界にいるのだろうと古手梨花は思考を巡らせる。
 
 それまでの古手梨花はごく普通に暮らしていた。
 ××県の寒村にある北条沙都子と古手羽入と共に暮らし、雛見沢分校に行けば竜宮礼奈と園崎家頭首園崎魅音、前原圭一がいた当たり前の世界。
 だが古手梨花の見た光景はそれではなかった。
 その時声が聞こえた。
 梨花はその方向に向く。そこには黒装束に身にまとった少女の姿がいた。
 彼女はショートカットで小柄、金髪のさらさらとした髪型をしていたが梨花の知る同じ体格、髪型である北条沙都子ではなかった。
 彼女はぺら、とベンチに座って本を読んでいた。
 
「あ、あの……」
「ん……ああ、やっときたのね」

 梨花は怪訝な顔をしていた。
 だが少女はそんな梨花に上目遣いをしながら言った。

「ところで貴女は私のこと知っている?」
「……知らないわ。なんなの、貴女?」

 少女はそうと呟き、またぺらと本のページをめくる音が聞こえた。
 それはとても乾いた音で、一定の音。

「私の名前は鷹野三四。いえ、田無美代子といった方がいいかしら。あとは魔女といった方が……まあいいわ。名前なんて所詮その人を表す記号でしかないから」
「鷹野三四? 貴女が?」

 少女はにやりと笑みを浮かべた。

「そう。まあ貴女が知っている鷹野三四ではないことは確かだわ。だってここは嘘の世界から出た世界《新世界》だからね」
「《新世界》?」
「そう、貴女が望めば何でもできる世界。例えばそうね。『私の周りには森林で囲まれてすでに廃れてしまった日本経済の象徴である高層ビル群があった』、どうかしら?」

 少女がそう行った途端梨花は凝視した。
 言いようがないほどの空間が本当に少女が言ったとおりになったのだから。
 
「な……貴女。本当に何者なの?」

 梨花が訪ねる。少女は読書しながら言った。

「だから何者ではないわ。そうね。これは《嘘》なのだからね」
「《嘘》?」
「そう。例えば貴女がこれまで生きてきた世界。そこは《嘘》で塗り固められた世界なのよ」

 少女は淡々と言う。

「貴女、古手梨花は《ひぐらしのなく頃に》という《嘘》の世界にいた人間だった。言うなれば記号ね。《オヤシロさまの生まれ変わり》という。《ループを何度も繰り返す少女》として」
「……《嘘》なんかじゃないわ! これまで私の生活した世界が《嘘》だなんて!」
「そうかしら。人間そんな万能感が卓越した生き物だなんて、それ自体が傲慢ね」
 
 その言葉を聞いて梨花は苛立ち、顔を高潮させながら少女が持っていた本を取り上げた。

「何か言うときは人の目を見ながらいいなさいよ! いい加減私を元の《世界》に帰して!!」
「……元の《世界》? 元の《世界》はここよ」
「違う! 私の元の《世界》は雛見沢という《世界》!! みんながいる《世界》!! そこが私の《世界》よ!!《新世界》!? そんなありがちな記号、反吐がでるわよ!! 私を元の世界に帰しなさいよ!!」

 へぇと少女は感情のない声を上げる。それを見て梨花はさらに激怒するが少女は応えない。
 すると少女は梨花からさっき取り上げられた本に指を指した。

「その本はJ.D.サリンジャーの《ライ麦畑を捕まえて》よ」
「だから、なんなのよ。別に本のタイトルなんて私聞いてないわよ! 私が言っているのは!」
「だから貴女の《世界》もその本と同じなのよ。《本》というモノで書かれた作品と同じ溶媒から生まれた《世界》。そしてその溶媒はあらゆる世界で浸食し、あらゆる《世界》が紡がれる。でも貴女の《世界》はその《本》と同じようにすでに完結しているの。それ以外のものは全て《嘘》なのだら」

 一瞬にして梨花はさっきまで激怒していた感情が引いていた。
 代わりに梨花は少女のことを困惑した双眸で見つめる。

「《嘘》って何よ。なにが《嘘》なのよ! 私が生きた《世界》は確かに《本物》よ! 《本物》!!」
「そうかしら。なら《本物》は私とこんな邂逅なんてする? 《本物》なら私とこんな会話なんてする?」
「…………貴女、おかしいわよ」

 少女はそうかもね、と呟く。
 風が吹き梨花と少女の髪が凪ぐ。
 
「《嘘》なのよ。この《新世界》も梨花、貴女がいた《世界》もね」
「…………《嘘》。 なら、私は、なんのために貴女に呼ばれたのよ」

 少女は立ち上がり高層ビル群に生えた草木を触る。
 
「貴女を《平和》に返す」
「《平和》? 私は十分《平和》よ!? 私の世界は十分に《平和》! だから!」
「……ふうん。《オヤシロさまの祟り》とか《雛見沢大災害》とか《雛見沢症候群》とかある世界が《平和》なの?」

 いつの間にか梨花の額から冷や汗が出てきた。

「《平和》は何もおきないこと。《平和》とは《ひぐらしのなく頃に》のことじゃないわ。《平和》とは《平和》よ」
「違う! それは違う! 私がこれまで生きた《世界》は確かに《平和》はなかった! でもそこが私の《本物》で《世界》だった!!」
「そう。貴女がそれを願うのなら私はとやかく言わないけど……けどね」
 
 少女は梨花に近づいて言った。

「貴女が言うその《世界》はまやかしよ。《幻想》でしかない」
「幻想…………違う!! 違う、違う、違う!! 《幻想》なんかじゃない!! 《幻想》なんかじゃない!! 《幻想》なんかじゃ!!」
「なら、貴女はいつまでもその《世界》にしがみつくのね」

 途端、梨花は少女の頬を手のひらで叩いた。乾いた音と共に徐々に少女の頬は赤く染まっていく。

「……私は、どうしたらいいの」

 梨花が呟く。

「それは貴女自身が決めるの。私がとやかく言うことではないわ」

 少女は常に淡泊な口調。
 梨花はしばらく呆然していたが「ねえ」と少女に尋ねた。

「私は……その《平和》は、みんながいるの?」
「……さあ。だって《平和》は《ひぐらしのなく頃に》じゃないから」

 そうと梨花は言う。

「なんだか……私、試されているのかな。なんでこんなことになるんだろう」
「知らないわ。そんなこと」

 梨花は少女の不躾なその口調に少し笑った。
 少女はそれが気に入らなかったらしく眉間に皺を寄せた。

「……何がおかしいの」
「別に。ただ貴女が鷹野三四ていうのは満更ではないってことよ。そうね、いってやろうじゃないの。貴女がいう《平和》という世界に」
「…………そう」

 少女はそれだけ呟くとさっきまで座っていたベンチに戻った。
 梨花もその後をついていき少女の隣に座った。

「その本はね」

 少女は言った。

「その本は世界中の誰もが知っている《本》。でもその作者は隠居生活を送っているそうよ。ふふ、なんだか今の貴女と同じではなくて」
「さあね。少なくとも私は貴女の方が不思議よ」
「ふふ。まだそんなことを気にしているの。私もその《本》と同じよ」

 そうして梨花は少女の顔を見た。
 そこには満面の笑みを浮かべた少女の姿があった。
 それを見て梨花も笑みを浮かべる。
 二人は穏やかな時間を送り、そして梨花は。





 梨花は目を覚ました。
 身体を起こすと茜色の夕日が写った。
 梨花は立ち上がり周りを見渡すとそこは教室の自分の机だった。
 その時、梨花のことを呼ぶ声が聞こえた。正確にはその声は梨花という名前を呼ばなかった。
 だが梨花はその名前で振り返った。
 そこには前原圭一がいた。
 だが梨花は知っていた。
 目の前にいた人物が前原圭一ではないことを。
 梨花は「ごめん」と言うと前原圭一だった男は「可愛い奴」と言った。
 
 それから二人は学校を後にする。
 梨花は男の後を追う。男は梨花のことを茶化すように会話をする。
 梨花はふと思う。
 あの《新世界》はなんだったのだろうかと。
 あの《世界》はなんだったのだろうかと。
 ふと梨花は鞄の中をあけて取り出すとそこにはD.J.サリンジャーの『ライ麦畑を捕まえて』と竜騎士07の『ひぐらしのなく頃に 鬼隠し編 上巻』が入っていた。
 男はどうしたと梨花に訪ねる。
 梨花はなんでもないと言うと笑みを浮かべながら男の右腕を自分の左腕に絡める。
 男は少し顔を赤らめていた。
 それを見て梨花はさらに笑う。

 その時、梨花はふと振り向いた。
 彼女の耳にふと聞き慣れた鳴き声が聞こえてきたから。
 ひぐらしの鳴く音。
 男はどうしたと梨花に聞く。
 梨花は首を左右に振りなんでもないと応えた。
 
 そうして梨花は男と二人闊歩する。
 そのひぐらしの鳴き声に感謝を心の中で呟きながら。



 『さようなら、《ひぐらしのなく頃に》』


 
 そうして梨花は、否梨花とかつて名乗っていた女は男と共に姿を消した。
 それは小さな幸せ。


                                                END



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2008/03/22 18:22 | 3600COMMENT(69)TRACKBACK(0)  

シリウス


 ……さん。
 ……音さん。
 声が聞こえた。聞き覚えのある声。
 私の身体が揺れていた。
 そして。
「詩音さん」
「……あ、監督」
「おはようございます、詩音さん」
 監督は笑って挨拶をした。
 私も少しはにかみながら、笑みを浮かべた。
「今日もお見舞い、ご苦労様です」
 監督、医者入江京介はそう言った。
 私はいいえと答えながら笑窪を作った。

 入江診療所の地下に北条沙都子の兄、北条悟史が眠っている。
 多くの人は悟史くんのことを家出をした、と思っている。
 もちろん私、園崎詩音も例外なくそう思っていた。
 ただ、あるきっかけで私は悟史くんが入江診療所の地下に悟史君がいることを知った。
 嬉しかった。
 だって悟史くんが、ずっと死んでるんじゃないかと思っていた悟史君が生きているんだもの。
それから私はたびたび入江診療所に来て悟史くんのお見舞いにきた。
 いや、たびたびっていうより頻繁に、かな。
 悟史くんは白いベットに寝ていてとても心地よい顔で眠っている。悟史くんは寝ていても日によって落ち着く日と落ち着かない日があるらしく、落ち着く日はこうしてお見舞いができる。
 けど落ち着かない日、つまり寝ていても悟史くんは暴れる。悪夢にうなされながら。だから私も誰だか判らない。いや、判らないというより、全員自分を殺した叔母に見えてしかたじゃないんかと思う。
 そういう時、私はガラス越しでしか悟史くんをお見舞いすることができない。
 だからこうして直接お見舞いできることは本当に嬉しい。
もちろん二人っきりっていうシチュエーションは理想だし、そういうのに憧れているんだけど悟史くんの容態がいつ変わらないか判らないため、いつも入江診療所のスタッフがいる。
 でもそれが監督の場合はまだ融通が利くから、本当にありがたい。
 だからさっきまで私と悟史くんは二人っきりでいられた。
 のにいつのまにか眠っちゃって、私の馬鹿。
「詩音さん、手に文庫本を持っていますけど、それを読みながら寝ちゃったんですか?」
 監督がそう聞いた。私はええと答える。
「宮沢賢治です」
「へぇ、これまた」
「馬子にも衣装って言いたいんですか?」
 監督はいやいやと手を振りながら答えた。
「違いますよ。それにそれ使う意味が違いますし」
「判っています。だから言ったんです」
「あはは。困ったなぁ。いえ、なんか詩人っぽいなぁと思いましてね」
 監督は腕組みしながらそう答える。
「詩人っぽい? まあ私はお姉よりも品行方正ですからそこらへんは弁えていますよ」
「えっとそういう意味ではないのですが」
「ちょっと、違うんですか!?」
 私はちょっと怪訝にしながらそう答えた。
「なんていいますか、どうして宮沢賢治を読もうと思ったのですか。それ詩集じゃないですか。もしかして悟史君にいい聞かせていたのではないのですか?」
「ちょ、その…………まあ、そうです」
 私は口を濁らせながら答えた。というか悟史くんと直接会うのは久しぶりだし、色々と話をしようと思っていたんだけど、なんか悟史くんの端整な顔立ちをいたら……話題が飛んじゃって、でたまたま持っていた宮沢賢治の詩集を読もうと思って、読んでいるうちにそのまま眠っちゃって……あー貴重な時間をっ!! 本当に私の馬鹿!
 すると監督は柔和な笑みを浮かべた。
「そうですか。悟史君は本当に羨ましいですね」
 その言葉に私は反応した。
「羨ましい? どうしてですか? だって、私」
「お見舞いだけならともかく、詩を読んでもらえるなんてなかなかありませんからね」
「それって、なんか馬鹿にしてません? 赤ちゃんにいい読み聞かせているお母さんのように、て」
 違いますよ、と監督は言った。
「むしろ詩音さんを尊敬しますよ。こうして読み聞かせているっていうのは知能がつくに連れて、なかなか機会がありませんからね。だから朗読劇というジャンルもあるわけですし」
「………………うー。やっぱりなんだか馬鹿にされている気がします」
「あはは。ところでどんな詩を読もうと思っていたんですか。私にも聞かせてもらえませんか?」
 私は赤面になった。
「ちょ、なんで監督に聞かせなゃいけないんですか!? そっちの方が恥ずかしいですよ」
「まあまあ、減るものじゃありませんし」
「私が精神的ヒットポイントが確実に減りますっ!」
 私はそう言って反論するけど、そういえば悟史くんに読んでなかったなぁと思い出して私はパラパラとめくると「春と修羅 第二集 三五六 旅程幻想」という詩に目がとまった。
 なんていうか一読して、なんともいえない感じがした。
 なんていうか、その、言葉にできない。
「詩音さん」
「わ、判りました。初めて読みますからとちっても笑わないでくださいよ」
「はい。というより悟史君のために一生懸命になっている詩音さんのこと、笑ったりしませんから」
 監督はそう言いながら私に笑みを浮かべた。
 もしかして監督、私のことを口説こうとしてません? と思わずいいそうになったけど、やめて詩を朗読することに集中した。
 そうして私はすぅと息を吸ってから読み上げる。

「さて、今日はここまでにしましょうか」
 監督はそう言って今日のお見舞いの終わりを告げた。
 私は悟史くんの手を握って「またくるね」と言いながら病室から出た。
「ねえ監督、悟史くんの容態はどうですか」
「容態ですか……悪くもありませんが、よくもありません」
「つまり現状維持ってことですよね」
 監督は何も答えなかった。
「……ねえ、監督」
「ん。どうかしましたか、詩音さん?」
「私、悟史くんの傍にいて迷惑じゃないのかな」
 すると監督は困惑した表情を浮かべた。
「詩音さん、どうしてそう思うんですか?」
「だって、私悟史くんから好きって言われたことないし、いつも引っ張り回しているだけだし……迷惑じゃないのかなって」
 そう俯きがちに私は言った。
 途端監督は笑みを浮かべた。
「ふふ。なら好きでもない人にどうして沙都子ちゃんのこと頼んだんでしょうかね」
「そ、それは……」
「それに、それは詩音さんが気にすることじゃありません。迷惑かどうかは悟史君が決めるものですからね。まあお見舞いで詩を朗読する人はそうそう居ませんけどね」
 監督はいつも調子で言った。
「なによー。結局そこを言うんですか? どうで私はひんぱんにとちりながら詩をよんでいましたよーだ」
「いえいえ。とちっても誰かのために詩を朗読してもらうていうのは素晴らしいです。悟史くん、本当に幸せだと思いますよ。これだけ想ってくる人が身近にいるんですから」
「でも、それは私より沙都子の方が」
 監督はそこで口を開いた。
「そうかもしれませんね。でも沙都子ちゃんも詩音さんもこうして想ってくれているというのは幸せ以外のなにものでもありません」
「そうでしょうか。私はとてもそう思えませんが」
「ふふ」
 監督はただ笑っていただけだった。

 入江診療所の玄関までいくと他の仕事が溜まっているので、と言って、中に戻っていった。
 空を見上げるとあたりは夜になっていて闇に包まれていた。
 星々が点々と光っている。
 それはまるで幻想的な光景だった。私がさっき宮沢賢治の詩を朗読したからだろうか。
 そういえば空を見上げることなんて久しぶりだなぁ。
 雛見沢は私の住んでいる興宮よりも田舎だから(まあ興宮も都会に比べれば全然田舎なんだけど)よく見える。
 まるで詩の世界にいるかのよう。
「あは。どうもいけませんね。私。悟史くんと会って話がしたい。好きでいられても、嫌いになっても私は……くよくよするな、園崎詩音。明日もがんばれ」
 誰に言うのではなく独り言。にしては少し大きかったかもしれな。
 でも構わない。
 私は悟史くんのために頑張るんだ。
 さて、これからお姉のところに行って、からかっていこうかな。
 私はそんなことを考えると、再度空を見上げる。
 星々はどこか笑っているように見えた。
 それはなんか優しく見守ってくれているお母さんって感じがした。
 私のやっていることは詩のリフレインのよう。
 いや、私だけじゃなく人の人生は星から見たら詩のように短く何回もリフレインをしているのだろう。
 でもだからこそ輝いていないといけない。

 そう、だって生きているんだから。
 

                                                    END
 

2008/09/13 16:34 | 3600COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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